第2章 小学生編

第11話 胎動

「止まりなさい! この先へは通せないわっ!」


「一歩でも動けば首をねます」



 急に現れた気配にエルナと村正は即座に臨戦態勢を取る。



「案ずるな、儂は圭の祖父母である源弥と友紀恵と話をする為に参っただけだ」


「あちきも同じ、源弥と友紀恵に会いにきんした」



 それを簡単に信じるわけにはいかないわね、圭どころか源弥と友紀恵まで知っているなんてっ。


 いえ、もう多くに知られているという方が正しいのかしら……でもそれは別だわ、これだけの力を持つ者たちを迂闊に近付けられるわけないじゃないっ!



「心配いりんせん、先のことを話しに来ただけでありんす」


「そうだ、備えるために参った。圭のためであることを心得よ」



 その時、エルナと村正の後ろから声がかかる。



「強い力を感じて来てみれば、大天狗に玉藻前たまものまえとは。大層なもんが来たものじゃのお」


「エルナに村正よ、その心意気に感謝じゃ。して大天狗に玉藻前は何用で参ったのじゃ」


「圭に関する事で参った」


「よかろう、来るがよい」


「村正、私たちもいくわよっ」


「そんなの当たり前です」




一方、その頃。




「マーヤ、カリーナ、私たちでは戦力不足です」


「わかっておるのじゃ、我らは準備なしでは十全に力を振るえん。だからこそやれることをやるのじゃ」


「みんな準備出来たよー、急いでー」



 魔女たちはこれ以上に場を乱されぬよう散り散りになり、神社を包み込むように魔除けの香を焚いた。




 そして、総勢六名が向かい合う。




「お主らが急に来るなど儂とばあさんの寿命を縮める気か」


「すまぬな、源弥に友紀恵よ。事が事なのでな」


「こちらはあちきからの贈り物でありんす」


「このような気が利くのなら、力を抑えてきてほしいものじゃ」



 源弥にしろ友紀恵にしろ、冗談かと思うほどに堂々としておるの。


 本人たちの資質か……いや、圭の影響もあるのかもしれんな。



「それで圭についてとは何でしょう」



 圭に関わるということで友紀恵は早く話すように促す。



「先ず話さなければいけないのは圭の友たちを討った者についてだ」


「ほお。圭の友を討ち、果てはあのような感情を抱かせ儂らにとっても大事な心優しき者たちを討ち滅ぼした者を知っておるのじゃな」



 源弥と友紀恵の纏う雰囲気が一変する。



 それだけではない、エルナと村正も同じである。



「討ち滅ぼした者たちは村正もよく知っている奴らだ」



 私が知っている?



「陰陽師の末裔、村正を封じた家系の者どもよ」


「陰陽師の末裔が……それが本当なら何故付喪神まで? 善き付喪神くらいわかるはず」


「あやつらはとっくの昔に堕ちておる。村正よ、封じられた時の事をよく思い出してみるといい。お主くらいの力を封じようとすれば相当な力がいる、契約に縛られただけではないのか」



 村正は封印に応じた経緯を思い出す。


 対話を求め約束をした上で封じられている……その後に重ね掛けされたのは力を流しただけ?


 本来の力さえあれば初めの時点で契約など必要なく封じることは容易かったということなのね。



「なるほどの、そやつらは人の理から外れたのじゃな。大方、遥か昔に善き者を討ったとかじゃろ」


「源弥は理解が早うありんすなあ」


「それでこれから先のこととはなんじゃ」


「圭の想いにあちきたち理外の者と生きとし生けるものの根源が応えたのでありんす」


「源弥に友紀恵よ、世界に轟いたあの感情は根源が応えるのに十分であった」



「儂らは圭の力が馴染み始めるのを待っていた。そしてこれから増していく力を見届けていかねばならん」



 圭を泣かせた奴らがわかったのなら潰しにいくしかないわねっ! あんたたち、そいつらの居城を探してきなさいっ。


 エルナはすぐさま眷属であるコウモリたちを飛ばす。



「待て、異国の者よ。そいつらを追っても意味はない」


「なぜよ! そいつらは許せないわ! それに放っておくと圭が危ない目に合うかもしれないじゃないっ」


「落ち着くでありんす、主さんの住むところにも同じような者がいるはず。敵を明確に定めるのなら、あちきたちの敵は世界中のそういう者たちでありんす」


「玉藻前の言った通りだ、そしてその者たちが圭に襲い掛かるというなら儂たちは時が来るまで圭を守るだけでいい」



 大天狗と玉藻前が説明するもエルナ、それに村正も納得は出来ない。


 エルナにとってはかわいい弟分、村正にとっては愛しい人なのだ。


 以前のことに対して報復せずにはいられず、これから襲い掛かるかもしれない奴らを捨て置くなど出来るはずもない。



「案ずるな、今や圭の事を知らぬ者はおらん。お主たちも含めて動向を見ておったし、聞いている者たちもいる。それに世界中の雑兵が儂らの相手になるとでも思うのか」



 大天狗と玉藻前からさらに力が溢れ膨れ上がる。



「それにお主ら異国の者たちもいるのだ。遍く全てが圭の味方だ、それに圭を害そうというのならお主らは存分に力を振えばよい」



「圭を神輿に何か事を起こす気か?」


 源弥は鋭く問いかける。



「そうではありんせん、ただそこにいるだけでようござりんす。圭は遍く全ての希望そのもの」


「圭を中心に全てが廻り、それを止めることはできん。あの日、事が起こったのが全ての始まり。圭の願いと根源の願いが重なり合い既に全てが動き出した。ただそれを知らせに来た」



 圭とその友を害した者どもが実に憎いの、はらわたが煮えくりかえる思いが一向に消えぬわ。


 原因となった奴ら、これから害そうとする奴らに力を振るうことは許されよう。



「儂らはこれにて帰る。すぐに圭のそばで陰から守護する役目を負う者が来る」


「あちきは残るでありんす」


「玉藻前?」


「あんなにかわいい子、放っておけるわけがありんせん」


「玉藻前の好きにすればよい。源弥に友紀恵よ、またいずれこちらに参る」




そうして大天狗は去ってゆき、玉藻前だけが残った。




「玉藻前よ、なぜ残ったのじゃ」


「大天狗に言ったとおり、それに日の本最強の一角がそばにいれば安心でありんす」



 源弥は頼もしいと思うと同時に強き者たちが集まっている状態に少し頭が痛んだ。

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