第10話 学校に通いたい

 9月に入り、まだ残暑が厳しい中。



「お義祖父様、お願いしたい事がございます」


「なんじゃ村正よ、改まって」


「圭様と共に小学校に通いたいのです」


「すまぬが、その願いは聞けぬ」


「まだ理由をお話ししておりません、せめてそれを聞いてから判断して頂きたく」


「ならん。村正よ、よく聞くのじゃ」


「付喪神である村正は人の理の外におる存在じゃ、籍が無くとも義務教育の期間であれば紛れる事は容易かろう」


「だがその先はどうするつもりじゃ、先を見通しておるのじゃろ。だが人ではない者に父母はおらず籍を取るのも容易ではない。嘘偽りで罷り通すつもりか? お主の力を持って無理に押し通すつもりか?」



「それは……」



「圭のそばで守ってくれていることには感謝しておる、お主が一緒に暮らすことも何ら問題はない」


「じゃがな、お主が道を踏み外せばお主は昔と同じように堕ちていき、それは長谷川家そして圭へと及ぶ。お主は圭を斬ることはないじゃろう、しかしお主の行動で容易く圭の人生が斬り殺される」




 私には言い返す言葉が思い浮かばない、お義祖父様の言うようにどこかで私が道を踏み外せば圭くんに及ぶのは当たり前のことでしかない。



 私が堕ちれば所有者である圭くんを変質させ、飲み込んだ上で死へと至らしめてしまう。



 それでも私は圭くんのそばに他の女が寄り付くことが許せない、私だけの圭くんなのに。



 けれど私は圭くんのそばで暮らし浮ついているのも否定できない、そばにいると幸せで愛してるという気持ちがいっぱい溢れてきてしかたないもの。




「よい機会じゃから言っておく。お主が圭を所有者とした以上、圭に刃を向けるというなら儂が討つ」



 お義祖父様の眼は本気だった。



 圭くんに起こったことをわかった上で覚悟と決意をしている眼。



 何よりも放つ気配から容易く討てると言われているようで恐怖心が湧いてくる。




「申し訳ありません」


「理解出来たのであればよい」



 村正は頭を下げ、すぐさま退室した。



「さすが圭くんのお義祖父様とし言いようがないわ。お義父様やお義母様よりも、お義祖父様やお義祖母様に本質が似てると思ってたけどあんな想いをぶつけられたら、よりそう感じちゃう」



 村正に源弥に対する嫌な感情はない、元々無理を承知でお願いしたのだから。



 むしろ圭への深い愛情が感じられて自分自身のことのように嬉しく感じている。



「私は圭くんにあれだけの想いをぶつけてほしいなー♡」


「付喪神と人が結婚したらだめなんて聞いたことないし、それは愛し合った結果だから悪いことじゃないもん♡」



「でも圭くんに近付く女は許せないよね」



「圭くんにきっと恋慕する女は現れるわ、あんなに優しくてかわいいのだもの。より引き締めて監視しなくちゃ」



「村正、怖いことをぶつぶつ呟いてるんじゃないわよっ」


「エルナですか、圭くんと私の神社に何かご用ですか?」


「圭やその家族の神社でしょうに、圭が幼稚園から帰ってくるまで待つだけよ」



 このヴァンパイアは油断なりませんね、最近はお義母様と料理まで一緒にする仲。



 お義祖父様に釘を刺されましたが、ヴァンパイアを斬るのは大丈夫では?



「あんたっ! そうやってすぐに殺気を向けてくるのやめなさいよっ!」


「泥棒猫は斬るべきでは?」


「圭はまだ子供よ、そういう対象にはならないわよ」



 このヴァンパイアは限りなく黒ですね。


 私から見て黒なら悪いやつ認定していいのでは?


 実際、圭くんに害を及ぼしますし。



「村正、落ち着きなさい。そのうち圭が帰ってくるわよ」


「圭くんに争っているところなんて見せれません」




「エルナお姉ちゃん! むらまさちゃん! ただいまー!」


「圭くん! おかえりー!」



 村正、私が先に呼ばれたからか知らないけど一瞬睨んできたわね……黙ってれば見た目はかわいいのに。




 そして季節は巡り。




「じぃじ、ばぁば、かっこいい?」


「おー! 圭に似合っていてかっこいいぞ」


「圭もすっかり大きくなりましたねぇ」



 このやり取りは祖父母だけでなく、両親に対しても似たような形で何度も行われている。



「圭くん! かっこいいー!」


「むらまさちゃん、ありがとー!」



 圭がここ最近見せて回っているのはランドセル。


 ランドセルが嬉しいだけではなく、小学校に通うということでここ最近ずっと楽しげにしていた。



 はー♡ 圭くん、かわいいしかっこいいー♡



 身長も伸びてるし、体重も少し増えて成長してる♡



 圭が成長しているのは確かだが、村正は計らずとも全てを正確に把握している。



 私ったら今まで何をしていたのよ!



 圭くんの成長日記を付けていかなきゃ♡


 恋文に夢中になって忘れてたなんてだめね、圭くんの成長と二人の思い出の日記も付けなくちゃ♡



 圭宛の恋文の総数はあまりにも多く、その数を把握しているのは当の本人だけである。



 爆発してしまいそうな気持ちを抑えるために書き綴っているので、圭には渡してはいないが時間の問題だろう。



「圭くん! 小学校の制服が届いたら一緒に写真撮ろうね!」


「うん!」




こうして日は過ぎ小学校の入学式がやってくる。




———————————

次回、第2章開幕。


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