第9話 魔女たちの生活と、ある事実

 圭の元を訪れてから少しの間はホテル暮らしをしていたが、夏真っ盛りとなった頃にはマンションの一室を借りて共同生活を始めていた。



「マーヤ、カリーナ、早く起きて朝食を食べて下さいねー!」


「ママー、着替えさせてほしいのじゃ」


「マーヤ、冗談でもそれ言わないで下さいね」



 笑顔が怖すぎるのじゃ、この威圧感を圭の前で出したら大泣きしてしまうのじゃ。



「出しませんよ」


「人の心を読むな、そんな芸当は持ち合わせておらんじゃろうに」


「マーヤは顔を見ればわかります」



 我は長なのじゃぞ、いつも威厳溢れる表情をしているのじゃがな。



「アイナすまんのじゃ、その威圧を収めてほしいのじゃ」


「仕方ないですね、許すかわりにカリーナを起こしてきて下さい」


「起きるわけないじゃろう、昼まで寝てるようなやつじゃぞ。いつも朝食を昼食にするやつじゃ、日本に来てからよりひどくなっておるのじゃ」



 カリーナが夜遅くまで起きてるのは何となくわかるのですけど、何をしているのかしら。



「マーヤ、今日の予定は?」



 いや、これもうママじゃろ。



「マーヤ? 今日の予定は?」


「うむ、この周辺の調査に行ってくるのじゃ」


「わかりました、くれぐれも問題は起こさないようにして下さいね」



 いかん、さっさと出かけるのじゃ。



 すぐに身支度をし逃げ出すように出掛けたマーヤはすぐにつまずく。



「そこのキミ、旅行中かな? お父さんやお母さんはどこだい?」



 早々にお巡りさんに補導されかかっていた。


 しかもこれが初めてではない、一人で出掛ければ高頻度で補導されそうになり毎回逃げている。


 その容姿から海外から両親と共に旅行に来た子供にしか見えず、もし国際学校の生徒だとしても学校に行かず私服で出歩いているのはおかしい。


 となれば必然的にこういう事態へとなる。


 毎回、魔女の薬を用いて個人を特定出来ないように巻いてはいるがこうなると帰るしかない。



「ママ、今日もダメだったのじゃ」


「朝の反省はどこにいきました?」



 冗談が全く通じないのじゃ、スキンシップではないか。



「そんなのいりませんよ」



 また人の心を読みよって、我より古の魔女っぽいのは気のせいなのじゃろうか。長の座を譲ってしまうのもいいかもしれんのじゃ。



「カリーナはもう起きておるのか?」


「部屋から出てきませんね」



 とそんなことを話していた時。



「おはよぅ、お腹空いたよー」


「カリーナ、毎日遅くまで何してるの?」


「アニメ視聴したり、ゲームしたり、配信見たりしてるよー、眠る時間なくてぇ」


「カリーナが一番楽しんでおるように見えるのじゃ」



「マーヤ、そんなの当たり前だよぉ。サブスクの配信だけじゃなく朝から深夜に掛けてアニメ放送があって放送時間帯には感想を言い合う楽しみ方もあるしサブスクであとでゆっくり楽しめて電子書籍で原作のラノベを買い漁ってそれも消化しなくちゃいけないしファンとしてグッズも吟味する必要があるしゲームはより取り見取りで自分で楽しむ他にゲーム配信という楽しみ方もある上に外に繰り出せばコンカフェやコスプレショップがあったりカードショップもあるし公式のショップや神絵師の展覧会があったりと永遠に楽しませてくれる……日本文化さいこー!」



「こやつこんなに話すやつじゃないじゃろ」


「そうですね、こんなに呂律が回るカリーナは初めて見ましたし勢いがすごいですね」


「それだけ、日本文化が最高ってことだよぉー。スウェーデンにはもう帰れない」



「カリーナ、圭くんが心配で代表の一人として手を挙げたのですよね?」


「もちろん圭くんを心配したから来たんだよー、それにたまに会ってるよー」




「「えっ?」」




「待つのじゃ、アイナと一緒に会いに行ったなんて聞いたことないのじゃが」


「それはそうだよー、私は土日とかに長谷川宅へ行って会ってるわけだしー」


「神社じゃなくて、圭くんのお家へ?」




 全くそんな素振りは見ていないし、マーヤは見守る姿勢を取ってるからカリーナもそうだと思ってたけど違うの?




「行くたびに村正ちゃんに妨害されるけど、圭くんと私はピヨモン仲間だよー」


「ピヨモンのゲームやカードで遊んだりして過ごすよー。圭くんにはパックを持っていくし、ご家族にはちょっとした菓子折りみたいなものを持っていく感じー」



 ちょっと待って、これはどういうこと?



 長谷川宅は圭くんのお家なのよ。村正ちゃんも住んでいるとはいえ、そこは不可侵の領域じゃないの?



「少し待ってくれるかしら」



 アイナがスマホを取り、誰かへと連絡を取り始める。



『エルナ、聞きたいのだけれど。挨拶以外で圭くんのお家に伺ったことはあるかしら?』


『何度かあるわよ、英里子と料理を教えあったりして夕食を食べたりするわ』


『村正が器用に隠れて殺気を飛ばしてくるけど、さすがに家では無茶はしないみたいね』


『そうなのね、わかったわ』




 なんてことなの!


 カリーナにも言いたいことはあるけど、エルナは自然と溶け込んでるっていうことよね。




「カリーナ、土日っていつの間に言ってたの?」


「昼の少し前に行ってぇ、遊んでから一緒にお昼ご飯食べて、また遊んで帰ってくる感じかなー」



 溶け込んでるじゃないの!


 そんな社交性あるなら、もっと前から見せなさいよ!



 この日、アイナはお姉ちゃんであるがゆえにお姉ちゃんの座は譲れないと決意を新たにした。

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