第8話 お客さんが来た

「圭くん、下がってて」


「うん? わかった」



 しばらくして。



「まだ距離があったというのにあれだけの殺気を放たれれば帰ろうかと思ったぞ」


「あなたは何者ですか?」


「我は前鬼ぜんき、友たちの願いで参った」


「むらまさちゃん、その人はいい人だよ」



 なるほどの、この子がそうか。


 あやつらが早く行けと駄々をこねた理由もようわかるというもんじゃ。



「幼き子よ、名は?」


「けい!」


「良い名じゃ、まだまだ初々しい子供ではないか」


「我は友たちに頼まれ会いに来た。けいよりは少し大きいかの、友は小学生の兄妹だ」


「ボクはまだようちえんにいってる」



 我にも声は届いたが、このような幼い子になんて想いを抱かせるのだ。


 どこのやつらか気になるの。



「前鬼、本当に会いに来ただけですか?」



 けいはむらまさと呼んでおったか。



「その通り、ただ様子を見に来た。友たちが早く行け早く行けとせっつくもんでな、難儀したわ」


「お主は妖刀村正じゃな。お主のような恐ろしい者が守っておるとは、これは意外じゃ」


「声を聞いた者なれば当然、もし余計な真似をすれば」



 けいが言っても警戒心を全く解こうとしないとは、まさかこのようなものが見れるとは愉快なものだ。



「心配するでない、今の時代に悪さをしようとするあやかしの方が珍しいのだ。昔は悪さをした身なれど今は子供たちを見守るほうが有意義というもの」


「しかし、周りに残るこの気配は日の本の外から来ている者がいるようだな。少しはけいが落ち着く時間を持たせようとは思わなんだのか」



 我はそのために友たちを説き伏せたというのに、これならすぐに来れば良かったか。



「ぜんきのおじさん、しょーがくせいのお友だちはどんな子?」


「元気すぎて困るくらいだ、後でゆっくり話してやろう。けい、他に人はいるか?」


「じぃじとばぁばがおくにいる」


「そこに案内してくれるぬか」




 案内の後は祖父に圭たちは境内へ戻るように言われ、前鬼は源弥と友紀恵と語り合う。




「今度は前鬼か、最近忙しないのう」


「仕方あるまい、日の本の外からも来ておるのだろ。もうこの流れは止まるまい」


「圭を気遣って会いに来てくれるのはいいのよ、けれどこの先どうなるかわからないのがね」


「何もなければいいのじゃが、こうなってはさすがに楽観視など出来ん」


「村正がそばにいる限り、圭が危ない目に合うのはなさそうだがな。今まで伝え聞いたことくらいしか知らぬが、村正からは何でも斬れそうな気配を感じたぞ」



 一時、相まみえただけで圭への忠誠心が恐ろしく高いとわかるほどだ。

 何があったのかはわからぬが変わったのだろうな。



「前鬼はこれからどうするんじゃ? しばらくこちらにおるのか」


「いや、後鬼ごきをそばに置いてきたとはいえ、我にも見守りたい存在がいるからな。圭と少し語らった後に去る」


「そろそろ魔女とヴァンパイアも来てる頃じゃ、異文化交流でも楽しんでから帰るといいじゃろう」



 日の本の外から来たやつらのことか。


 しかし源弥も友紀恵も肝が座っておる。


 だが真に恐ろしいのは孫の圭のほうか、将来がどうなるか全くわからんな。



「なんだこれは」



 二人の女性がそれぞれ圭と村正を膝に乗せくつろいでいた。



「おじさんもいっしょにあそぼー」



 本当に驚かせてくれるではないか。

 

 こんな珍妙な光景は初めて見たわ、土産話にちょうど良い。



「ねぇ、村正。あんたこの前、私と戦ったばかりよね」


「それがどうかしたのですか」


「なんで私の膝の上に遠慮なく座ってるのよ」


「こうしないと圭くんと視線が合いませんから仕方なくです」


「あっそ」


「おじさん、ピヨモンしってる?」


「おぉ! 知っておるぞ、我の友たちが随分熱心に語ってくるからな。ゲームやカードやらでよく遊んでおる」



 それから前鬼は自身が見守り、友である兄妹の話を語る。


 出会いは2年ほど前に遡り、現在は小学4年生の兄と小学2年生の妹。


 この兄妹は前鬼と後鬼を見ても大して怖がりもせず、ただ顔は怖いと素直な感想を言った兄妹。


 まだまだ危なっかしい年齢である兄妹を見守りながら交流を深めていき、手を焼かされるのも心地良く思える存在。



「お兄ちゃんやお姉ちゃんがいるのってどんな感じなのかな?」



 お姉ちゃんならここにいますけど!?


 今、圭くんを膝に乗せて抱っこしているのが紛れもないお姉ちゃんよ!?



「そうだな、兄は妹がかわいいらしくよく世話を焼いているな。喧嘩はすれど兄から謝るのが多い、ただたまに不貞腐れてる時はあるがな」


「んー、お兄ちゃんやお姉ちゃんがいるとおやつもらえるのかな」


「ははは! 圭はそれが気になるのか、食いしん坊だな」


「圭に弟や妹が出来た時を考えてみよ」


「んー、あげるかも」



 圭が祖父母と寝ているのは、祖父母が一緒に寝たいという大前提があるものの、誰に何をとは言わないが気遣われた結果である。



「おじさんのお友だちともあそべるかな?」


「そうだな、圭がもっと大きくなれば我が友たちに会えるかもしれんな」


「ほんと?」


「本当だとも、その時は皆で楽しく過ごそうではないか」


「おじさんのお友だちにたのしみって言っておいてよ!」


「任された! では、我はそろそろ帰るとするか」


「圭、また会う日まで元気にしてるんだぞ」


「うん! おじさん、ばいばい!」



 土産話がたくさん出来たことで後鬼や兄妹たちの元に帰るのが楽しみで仕方ないといった様子で前鬼は去っていく。



「圭くん、圭くんにはアイナお姉ちゃんがいるでしょう?」



「? アイナお姉ちゃんはお友だちだよ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る