第5話 夢の中で

 翌日。



「けい、来てあげたわよっ」



 影からふわっと得意げな顔をして現れたのは昨日ぶりのヴァンパイアさんだ。



「エルナお姉ちゃんだ! 今日もかっこいい!」



 エルナは昨日で覚えたことがある。


 自分が力を見せればけいがとても喜んでくれるということと、その気持ちを受け取るのに満更でもない自分がいるということに。



「昨日はけいの家族に挨拶もせずに帰っちゃって、あとから失礼だったかもって思ったのよ」


「だから後で挨拶しに行きたいのだけど。それでそいつは誰かしら?」


「そいつとは失礼ですね、圭くんのお姉ちゃんです」


「けい、それは本当のお姉ちゃんかしら?」


「ちょっと前にあそびにきた人でボクのお友だちのアイナお姉ちゃん」



 圭からすればこれくらいの認識である。


 たとえ圭を膝に乗せ抱っこしているアイナが衝撃の事実を知った! みたいな顔をしていようが正しいのは圭の方だろう。



「それであんたは何者なの?」


「先に名乗るのが礼儀ってものです」



 アイナは圭と出会った時の自分を覚えていない。



「まぁいいわ、私はヴァンパイアのエルナよ」


「私は魔女のアイナです。よろしくお願いしますね、エルナさん」



 一瞬バチッと何かが弾けたが気のせいだろう、圭はのんびりとエルナの隣を飛んでいるコウモリを見ているし。



「それでエルナさんは圭くんの何ですか?」


「私はけいの友達よ。けい、おいで」


「エルナお姉ちゃん!」


「えっ!?」



 するりとアイナの元を抜け出しエルナの方へと行く圭にアイナは動揺を隠しきれない。


 どうして? 私は圭くんのお姉ちゃんでずっと五日ほど一緒にいるのに。



 圭はというとエルナの力でぷかぷかと浮いていた。



「エルナお姉ちゃん、ボクもエルナお姉ちゃんみたいなことできるようになりたい!」


「人間には無理よ、諦めなさいっ」


「そうなんだ」



 沈んだ声にエルナの胸が痛む。



「私の、け、眷属になったら出来るようになるわ、でも大切なことだからゆっくり決めるのよっ」


「うん、わかった!」



 んー! 今まで子供と遊ぶなんて事なかったから、こんなに楽しいなんて思わなかったわ!

 本当に私の眷属になったら、ないわないわねっ。



「私は何を見せられているのでしょうか、私がお姉ちゃんで他のお姉ちゃんなんて必要ないはずなのに」


「アイナ、心の声がそのまま言葉になって漏れてるわ」


「エルナお姉ちゃん、ボクをくるくるまわせる?」


「ゆっくり一回転させるから、気持ち悪かったらすぐに言うのよっ」


「お、おぉー!回ったー!」


「酔ったらいけないから、今日はこれだけだからねっ」


「おかしい、私が負けている気がする」


「だからそういうのは心の中で思ってなさいよっ」



 今は仕方ないかも、圭くんは遊びたい盛りだし寒くなってきたら人肌恋しくなるはずだわ。その時は抱きしめてあげなくちゃ。


 立ち直りの早さに逞しさを感じるが、まだ夏本番でさえない。



「魔女が先にやって来てたのは驚きね、ずっと隠れ住んでたじゃない」


「ヴァンパイアに言われたくありませんよ、同じじゃないですか」


「忌々しい教会のじじいどもが、今だにハンターを向けてくるからよ、魔女にも似たようなやつらを変わらずに仕向けてるんでしょ」


「そうですよ、まだ引きずっているなんて時代遅れもいいとこです。陰でこそこそとしつこいんです」



 アイナが圭のかわいさに一瞬で堕ちたのは、元々魔女たちは無駄に混乱を広げたくないとあって他者との関わりが薄い。


 ヴァンパイアにしてもそれは変わらない。



 そしてこの時、アイナは気付いてしまう。



「エルナさん、とても危険なことに気付きました」


「教会のじじいたちって少年が大好きな変態の集まりじゃないですか、圭くんのかわいさを知られたら」


「ちょっとやつらを潰してくるわっ」


「待って下さい、今は下手な行動は避けて圭くんに近付いた瞬間に全部残らず潰しましょう」



 圭のそばでかなり物騒な話しをしているが、二人に妙な信頼関係が出来た瞬間である。



 圭はコウモリ観察に夢中になっているから気にも止めていないが、コウモリが主人のために頑張っていて少し切ない。



 夜にはエルナは長谷川家の面々と交流し、夜が更けていく。




 その日の夜。




 圭はまた夢を見る。



『けいく……聞こえ……』


『だれー?』


『聞こえて……』


『うん、聞こえるよ!』


『やっと繋がった!』



 嬉しい! 圭くん、圭くん、圭くん!



『つながった?』


『ずっと夢の中で圭くんに語りかけていたの!』


『これはゆめ?』


『うん、これは夢の中。繋がったっていうのは糸電話みたいな感じかな』



 圭くんの声が鮮明に聞こえる、透き通っていてかわいい声してる。



『あれ?ボクの名前しってるの?』


『うん、圭くんのことはよく知ってるの』



 あの声が届いた日から、圭くんだけを思って、圭くんだけを一日中見て、視界に映る全てを目に焼き付けて調べたんだから。



 ずっとずっとずーっと見ていたよ、圭くん♡



『圭くんにお願いがあるの』


『どうしたの?』


『私、今封印されてるの。捕まってるっていったほうがわかるかな』


『つかまってるの!? どこに!?』


『捕まってるけど、圭くんが朝起きて呼んでくれるだけですぐに圭くんのところに行けるよ』


『うん、わかった! でもじぃじに言ってからでもいい? じぃじがなにかあったら言うようにって』


『うん、それで大丈夫』


『お名前は?』


『私は村正むらまさ、村正って呼んでくれたらすぐにそばにいけるよ』


『わかった! 待っててね!』


『うん、待ってるね!』



 はぁー♡ 圭くん、優しいしお利口さん♡


 ちゃんとお義祖父様の言いつけを守ってる。


 あのお義祖父様なら大丈夫、とても理性的な方に見えたし。


 やっと圭くんのそばに行ける、これからは私がそばにいる!

 これ以上、圭くんを悲しませるような事なんて起こさせない!


 周りにいる外来種をもう近付けたりさせない!


 同じ日の本で生まれた私こそが圭くんのそばにいるのに相応しい!


 圭くんにお仕えするのも、ご奉仕するのも全て私が相応しいの♡



 早く呼んでね♡



 すぐにそばに行くからね、圭くん♡




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誰かに刺さるへきの解放カウントダウン

その二、改め深淵解放まで《1》

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