第4話 はやらないって聞いたよ

 魔女たちが長谷川家を訪れ数日が経ったある日。



 祖父母に呼ばれたアイナが社務所に行った後、一人でいる圭の元へ忍び寄る影があった。



 圭から少し離れた先でまさに影から現れる。



「ふふっ、貴方のために来てあげたわよっ」


「えー!」


「影から出てくるのを見れば驚くのは当然よねっ、人間にはこんな事できないんだからっ」


「恐れなさい、敬いなさいっ」


「うっわー! かっこいいー!! ねぇねぇお姉ちゃん、どうやって出てきたの!?」



 あれ? なんか予想していた反応と違う。


 子供だったら、いえ大人でも影から急に人が現れたら驚いたり怯えたり恐れるあまり命乞いをするものでしょ。


 なのにこの子は何でこんなにキラキラとした瞳で平然としてるのよ!



「貴方、私が怖くないの?」


「こわくないよ? ばって出てきたお姉ちゃんかっこよかった!」


「お姉ちゃん、土の中に住んでるの?」


「そんなわけないでしょっ!」


「どうして土の中から出てきたの?」


「土の中から出て来たのではなくて、影から出てきたのよ。ほらあそことか木とかで出来た影がいっぱいあるでしょ」


「なにかちがうの? かげからじゃないと出てこられない?」



 圭は子供らしく湧き上がる疑問を全てぶつけていく。



「土の中に住んでたらそこからしか出られないじゃない。影からだと影がある所だったら好きな所に移動できるのよ」


「それに普通に歩いても移動出来るわよ」



 優しい。



「じゃあなんでかげから出てきたの?」



 今更、驚かすためになんて言えないじゃないのよ。


 あんな声を聞かされたら元気になるようにと思って急いでここまで来て、驚かせたら元気になるかなって思っただけなのに。



 優しい、けど元気を出させる方法がおかしい。



 本人が気付くはずはなく、そのまま突き進む。



「ふふっこれならどうかしらっ」



 コウモリが一斉に現れ、散り散りに羽ばたく。



「うわー、なにこれ!? 本で見たことある気がする」


「コウモリよ! コウモリ! 私の眷属よっ」


「ねぇ、けんぞくってなに? さっき言ってた、うやまいなさい? ってなんのこと?」



 子供相手に尊敬しろって言うだなんて思い出すと恥ずかしいわね、この質問はなかったことにするしかないわ。


 それにしても全く怖がる気配がないわね。


 私が何かするたびにキラキラと瞳の輝きがさっきより増してるじゃない、おかしいわね。



 それは当然で圭はあやかし等と触れ合う力を持っているため、お出かけした時に近しい姿の者やもっと怖い姿の者を見たりするので慣れている。


 伊達に五年も生きてはいない!!



 方法はおかしいが、意図しないところで圭は大喜びしているので結果は上々である。



「眷属は友達と思えばいいわっ『うやま』貴方、怖れないなんて見込みがあるわねっ」



……。



「貴方、名前は?」


「けい。お姉ちゃんのお名前は?」


「私の名前はエルナよ」



 エルナ、白銀の髪をポニーテールにして纏め、ややつり目で紅い瞳の目力が存在を主張している。


 羨ましいと思われる身体つきで、仕草にしなやかさが垣間見えるもののどこか残念さがある。太陽の日差し等は克服した世代。


 そして1番の特徴はヴァンパイアなのでGood!がある。



「エルナお姉ちゃん」


「私はけいの姉ではないわよ」


「!!」


「エルナお姉ちゃんってつんでれ? でも聞いたのとはちょっとちがう? あっ! つんつんなの?」


「待ちなさい、私はツンデレでもツンツンでもないわよっ!」


「でもさっきからつんってしてるよ?」


「わ、私だってデレる時もきっとあるわよ」


「そういうのはもうはやらないんだってー、たよーせいがいるって」


「けい、誰からそんなことを聞いたの?」


「アイナお姉ちゃん」



 そのアイナお姉ちゃんはごく短期間で圭に偏った知識を色々与えたとして、社務所にて祖父母から絶賛叱られている最中である。



「まぁいいわ、それよりけいが泣いた理由を教えなさいよっ」



 本人に聞くという特大の地雷を踏み付けていくスタイルはさすがである。



 圭はまだ立ち直っているわけではない。


 よって、瞳が潤みだす。


 そうなれば当然、


 この流れは以前もあったので省略する。



「まったく何で私がこんなことを」


「エルナお姉ちゃん、これなに? どうなってるの!?」


「子供には難しいから、すんごい力とでも思っておきなさいっ」



 圭はエルナの手のひらの上、正確に言えば手のひらを上に向けた先、エルナの頭上よりも少し高い位置にぷかぷかと浮いていた。


 圭が泣いてしまう前にエルナが能力を色々出し切った結果こうなっている。


 五歳児が座った姿勢で浮いているとはいえ、大きさからして圧巻の光景である。



「圭、楽しそうね。そちらの方は?」


「エルナお姉ちゃん!」


「私はエルナ、ヴァンパイアのエルナよっ」


「またつんつんしてるー」



 ここには圭が浮いていることにツッコミを入れる存在なんていない。


祖母の友紀恵ゆきえは動揺することなく続ける。



「圭、帰るわよ。エルナさんはこの後はどうするのかしら?」


「私も帰るわ、気になるからまた来るわね」


「ばぁば、アイナお姉ちゃんは?」


「アイナさんはまだじぃじとお話しがあるから説教はまだまだ続く先に帰りましょうね」


「エルナお姉ちゃん、ばいばい!」


「ふんっ」



 そうして圭たちは帰宅の途につき、エルナは消え去っていく。




 その日の夜。




 圭はまた夢を見る。



『け……いる』


『おねが……と……いて』


『だれ?』


『やっ……るの……』


『なにかはなしてるの?』


『……』



 起きた時にはまた全てを忘れていた。




———————————

誰かに刺さるへきの解放カウントダウン

その二まで《2》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る