第3話 魔女のお姉ちゃんたち
アイナが神社へと訪れた後。
アイナが改めて圭の祖父母と両親へと挨拶をしたまでは何も問題なく進んでいた。
アイナの後ろに他の魔女たちの姿は見えていたが特に気になる点はなかった。
ただその二人と挨拶をした瞬間に全てが吹き飛んだ。
「はじめましてなのじゃ、我が魔女たちを束ねておるマーヤなのじゃ」
「はじめましてぇー、カリーナです」
アイナとは普通に挨拶を交わしていたからこそ、他の魔女たちの独特な雰囲気に家族全員が呆気に取られていた。
圭はへんな人がきたーくらいにしか思っていない。
そこへアイナがすかさずフォローを入れる。
「マーヤはこの見た目ですけど魔女たちの長ですし、私たちより歳上で若返りの薬を使いすぎたせいでこの姿に。言葉使いは
「カリーナは黙っていると気になることはないのです。けど話すと間延びしきった話し方でどうしてもだらしない性格がバレてしまうのですが、それだけです」
「
マーヤ、褐色の髪をショートヘアにし、目は丸く草原を思わせる薄い緑色の瞳が爛々と輝いている。
ただ気になるのは小学生の高学年から中学生のように見える
カリーナは薄茶色の髪をロングで流し、目は垂れ目で灰色の瞳からは何を思っているのかは感じ取りにくい。
細身な身体を覆い隠すようにゆったりとしたパーカーを着て全体的に伸びた雰囲気があり、アイナが言った通りのことが全身から伝わる。
皆が呆気に取られている中、いち早く復帰した母の
「みなさん、夕食はまだよね? 良かったら食べていかない?」
「おー助かるのじゃ、日本に来たばかりで外食するにもようわからんしの」
その近くでアイナが祖父母に頭を下げていた。
「それで三人ともが例の件で来日したということじゃな?」
「それで間違いないのじゃ、魔女たちを束ねる長として此度の件も代表として来ておるのじゃ。それに我が来ぬと魔女たち全員が勝手に赴こうとしておったから収めるためにもな」
「その愛らしい子があれほどの感情を吐き出したのか、暴れ狂う感情を世界中にぶちまけたとも言える。きっかけは何であれ我から見てその子は特別じゃな」
「そうか、今は難しい話をしても始まらん。食事にしようとするか」
食事中は異文化交流ということもあり大いに盛り上がり、特に英里子とマーヤの間では若返りの薬で盛り上がっていた。
「ママ、そのおくすりが気になるの?」
「そうね、女の人はずっと綺麗でいたいって思うものよ」
「ママ、キレイだよ」
英里子は愛おしげな眼差しで圭の頭を撫でる。
だが決して油断してはならない。
絶対に忘れてはいけないことがある。
何でもないかのように唐突に、
子供は純粋ゆえに無垢な瞳で、
鋭利な刃を振り下ろすということを。
「アイナお姉ちゃん、そのおくすり使ったことある? いま何才?」
一度放たれてしまえば刃を思うがままに振り回して連撃を繰り出してくるということを。
「カリーナお姉ちゃんも使ったことある? ボクと何才ちがい?」
「「ぶふっ」」
2人は盛大にお茶を吹き出した。
二連撃は刹那のうちに繰り出され、さらに追撃が襲いかかる。
「マーヤお姉ちゃんがいっぱい使ってるなら、いっぱいあるのかなと思って。ママがほしいみたいだから」
瞬きをする暇もなく五歳児が振り下ろした刃で死屍累々の地獄絵図が広がった。
「圭くん、私は使ったことないからね。それに女性には年齢を聞くのはダメなことなの」
あんなにかわいい顔なのに、とんでもない破壊力を持っているのね。
私がこれから色々と教えてあげないといけないわ、圭くんの
マーヤとカリーナにもお姉ちゃん呼びなのは気になるけど、のじゃロリ長とだらしない子では私の立場は揺るがないわね。
「圭くん、私はぐーたら出来ればいいからお薬に興味なんてないよぅ。圭くんが持ってるピヨモンのカードの方が気になるー」
「ピヨモン知ってるの? あとでいっしょにあそぼうよ」
うーなんて眩しさ、これが子供。かわいいけど急に鋭いのが飛んできて、傷が深い。普通に痛い。
圭くんは有望株と感じる、将来はこんな子に養ってほしい。
さり気なく巻き込まれて傷を負った母は息子のために押し黙る。
決してこれ以上触れて大怪我を負う前に逃げた訳ではない。
「ところで魔女たちは観光ビザで来日したんじゃろ、その間はそれぞれどうするつもりじゃ」
「少しの間はホテル暮らしでそれぞれ自由に行動する予定ですけど、そのうちに三人で暮らす部屋を借りようと思ってます」
「いや観光ビザじゃろ」
「私たちは魔女ですので」
「いや『私たちは魔女ですので』」
魔女の一言で押し切った、伊達に長年魔女として生きているだけあって色々と方法はあるのだ。そう色々と。
「まぁよいじゃろ」
「はい、私は明日も圭くんが幼稚園から帰ってきたら一緒に遊びます。見守りは任せて下さい」
夕食の後は少し話したり遊んだだけではあるが、ちょっとした歓迎会は終わりを告げる。
その日の夜。
圭は深い眠りについていた。
『わたし……呼ん……』
『だめ……ま……上……届か……』
『こえ?』
『!? け……わ……呼……』
『おは……のに』
『ちか……た……かも』
『どうしたの?』
『……』
圭は確かに夢を見ていた。
けれど起きた時には全てを忘れていた。
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誰かに刺さる
その一まで《1》
その二まで《3》
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