第2話 お姉ちゃん
あの日から祖父母や両親が甲斐甲斐しく世話を焼いて気遣ってるのを感じ、圭は少しずつ元気を出していった。
ただこれは子供ながらにみんなに応えようとした結果の空元気でしかない。
そんなある日。
圭は神社の境内で折り紙で遊んでいた。
「この前、ここで泣いていたのは君かな」
綺麗な金色の髪を肩口の長さのボブヘアにしている二十代前半に見える女性。
少し垂れ目の優しげな青い瞳に
優しく微笑んで圭へ声をかける。
ここでこの状況を客観的に想像してみてほしい。
流暢に日本語を話しているが明らかに海外から来たと思われる成人女性が五歳児に近寄る場面。
どこをどう取り繕っても、事案である。
さらに。
「ほら、ここから泣く声が聞こえてきたから君じゃないかなって」
その言葉を聞いて圭の瞳が潤みだす。
第三者から見て女性が子供を追い詰めて泣かそうとしている場面など完全にアウトだ。
「ごめんね、泣かせるつもりなんてないの。お菓子食べる? ピヨモンのカードパックもあるよ?」
アウトの上にアウトを重ねていく。
いつ通報されてもおかしくない。
ピヨモンとはデフォルメされたヒヨコが主人公で同じくデフォルメされた怪物などが多種多様に登場する大人気コンテンツである。
なお公式からヒヨコをニワトリに進化させるのは非推奨とアナウンスされている。
女性の頑張りもあり、なんとか二人でベンチに腰掛けてピヨモンのカードで遊ぶところまで漕ぎつけた。
あぁ! この子、おめめくりっくりでパッチリしててかわいい!
カードを持つ手も小さくてかわいい! 手を繋いでお出かけしたい!
「そういえばお名前はなんていうの?」
「けいだよ」
「お姉ちゃんのお名前は?」
「私はアイナっていうの」
「アイナお姉ちゃんだね」
けい君、どんな漢字なのかしら。
それにアイナお姉ちゃんだなんて、なんて良い響きなの!
私はけい君のお姉ちゃん、けい君のアイナお姉ちゃん!
「けいくんはどのカードが好きなの?」
「うーん、この中ならこれかなー」
「並んで座ってると一緒に見づらいから、ここに座って一緒に見るのはどうかな?」
トントンと膝の上を叩く。
「お姉ちゃん、よく見えない?」
「うん、ちょっと見づらいかな」
そして運命づけられたかのように、今後しばらくは定位置となる場所へと圭は座る、座ってしまう。
アイナの膝の上にちょこんと座る圭。
アイナはそれなりに身長が高く、逆に圭は身長が少し低め、それに今はカードを覗き込むためにやや前屈み。
となれば、抱き抱えているアイナの包容力たっぷりの大きな胸が圭の頭に乗っていた。
癒されるわ、これが姉の気持ちなの? それとも母性がこういうものなのかしら。
内側から何かが溢れてしまいそうになるわ。
「お姉ちゃん、このキャラ好き?」
「うん、お姉ちゃんも好きよ」
そう答えを返しているが体勢のせいでアイナはカードがあまり見えない。
それにアイナの好きという言葉は自然と圭へと向けて言っており、話がすれ違っている。
はっきり言ってしまうと体勢関係なくカードはほぼ見ておらず、圭の動きがかわいらしくてその動きしか目で追っていない。
端的に言ってもう弾けてしまう一歩手前だ。
理由はあるが、それにしてもアイナはチョロすぎた。
アイナは持ち前の自制心
「けいくん、ご両親に挨拶したいのだけど会えるかな?」
「パパとママ?今はお仕事に行ってる、じぃじとばぁばならここにいるよ」
そうして二人は手を繋いで社務所へと向かっていく。
「けいくんのお祖父様、お祖母様、はじめまして。私はスウェーデンから来ました魔女のアイナといいます」
「アイナさん、流暢な話しぶりには感嘆する。だがなぜ孫を膝の上に抱き抱えておる」
「それは今からお話しする事がけいくんに関連することだからです」
「圭、隣の部屋におやつを用意してあるから食べておいで。ちゃんと手を洗ってからにするんだよ」
圭はおやつと聞き去っていく。
あぁ、けいくんが。
「魔女と名乗ったな。圭に関わる話となれば一緒に聞くわけにはいかんじゃろ、それで内容は?」
「ある日、けいくんの何とも言い表せない感情で泣き叫ぶ声が届きました。本能的にすぐに向かわなければいけないと思って感情のままに来日しました」
「雰囲気から察するにお祖父様とお祖母様はその日の事を何か知っていらっしゃるのでは?」
「あの声は恐らく世界中に届いています、場合によってはけいくんのために対応を考る必要があると思います」
祖父母はあの日、何があったのかを話した。
魔女と名乗り、それに相応しい力を感じるアイナを自身たちの経験を元に、それと孫のために来日したというアイナを信用する。
「儂たちも感じ取った想いが世界中に届いていたとすれ、一先ずは様子見する以外にない。相手も目的もわからずでは動くに動けないのじゃからな」
今後の話はまたの後に、そしてアイナは圭をそばで見守る立場を手に入れる。
「それで私の他に魔女二人が来日してますので、今晩ご挨拶に伺います」
三人の魔女が来日していたが、社交性があるアイナが代表として来たのだ。
私が来て良かったわ、あの二人に圭くんの良さはわからないとはいえ何があるかわからないもの。
圭くんのお姉ちゃんはもう私なの。
そして圭が自宅へと帰るまで遊びの時間だ。
「アイナお姉ちゃん、あつくない?ボク、ちょっとあつい」
「圭くんはお姉ちゃんの膝に座るのはいや?」
「いやじゃないけど」
少し困った声、かわいい。
「ピヨモンのカードをこうして一緒に見ようよ、お姉ちゃんはあまり詳しくないから圭くんに教えてほしいの」
「うん、わかった!」
なんて素直なのかしら、ダメだわ、おかしくなりそう。
こうしてアイナはほんの少しだけ笑顔を取り戻した圭と夕暮れまで
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