みんなにボクの四葉のクローバーをあげるねっ!

子午蓮

第1章 幼稚園児編

第1話 慟哭

 夏に差し掛かり、強い日差しが降り注ぐ境内の一角。


 そこで遊ぶ少年少女たち。


「けい、はやく追いかけてこいよー!」


「けいくん、はやくはやくー!」


「待ってよ、らいもみーちゃんも早すぎる!」


 楽しそうに全力で駆け回る子供たち。


 追いかけっこをやめて、日差しがわりに松の木々の下で休む三人は満面の笑顔でおしゃべりを楽しむ。


「けいは走るのがおそいなー、そんなんじゃいつまでも追いつけないぞ」


「らいもみーちゃんも、なんでそんなに早いの? 追いかけっこも鬼ごっこも一回もかてたことないんだよ?」


「けいくん、むくれてるの? かわいいなー」


 けいにとって大切なお友だち。


 毎日のように遊んでる、いつも元気なお友だち。


「あっ! そろそろ暗くなってくるしばぁばとかえらなきゃ、また遊ぼうね! ばいばい!」


「おー、また明日な!」


「けいくん、またねー」



 三人が遊んでいたのはけいの祖父が宮司を務める神社。祖母が幼稚園へ迎えにいく際にそのまま自宅へと帰らずに境内で遊ぶ孫を神社まで連れて来るのが日課である。



「圭、今日はどんな遊びをしてたの?」


「追いかけっことかいろいろ」


「追いかけっこかー、圭は運動会で一位を取っていたから負けないだろ」


「ううん、友だちのほうがもっと早いよ」



 祖父母から毎日元気に駆け回っていると聞いてはいるが、共働きの夫妻からすればかわいい息子のことが気になって仕方なく、一緒に過ごせる夕食やその他の時間はべったりだ。



「心配せんでええ、儂とばあさんがいるしの」


「じぃじとばぁば、いっぱいおやつくれるから大好き!」


「圭、それはばぁばとの秘密だったでしょう。おやつ減らされてしまうわよ」


「それはいやかも」



 こうして家族団欒の時間は過ぎていく。




 そんな穏やかな日々を過ごす中で事が起こる。



「今日は何してあそぶ?」


「だるまさんがころんだがいい」


「じゃ、そうすっか」



 じゃんけんで鬼になったのは圭。



「だーるまさんがーこーろんだ!」


 そう言って振り向いた先には二人の大人の姿。


 そして何かが横切るのが見えた。


「えっ」


 次に目に写ったのは頭と身体が離れて横たわる二人のお友だち。


 小鬼のらいと付喪神のみーちゃん。


 え、なに、どうして。


 今、なにがあったの。


 お友だちが消えていき、その場には割れた手鏡が一つ。


「斬り伏せたからもう大丈夫だ、安心していいからな」


 大人の男の人がなにかを言っている。


「君、危なかったね。あんなのに近づいちゃ駄目だよ」


 大人の女の人がなにかを言っている。


「こんな所にまで蔓延っているなんてね」


「忙しくて仕方ないな、これは回収して納めるか」


「じゃあな坊主」


 大人たちがなにかを言って、すぐに消えていく。



 お友だちはどうなったの?


 きりふせた?


 きってころされた?


 なんで、どうして、いっしょにあそんでただけだよ。


 みんな、なにもしてないよ。


 わるいことしてないし、いい子にしてたよ。


 いい子にしてたらいいことがあるって、だからみんないい子にしてたのに、どうして。



 殺されて死ぬなんてことや言葉をたとえ知っていたとしても、まだ五歳の子が真に理解すること、ましてや受け入れることなんて到底出来るはずがない。


 その一連の出来事が一瞬の内に目の前で起こった。



 どうして、わかんない、かなしい、くるしい、つらい、くやしい。



 友達を理不尽に奪われた苦しみ、悲しみ、辛さ、何も出来なかった悔しさや相手に向ける怒りや憎悪。


 今まで知らなかった理解できない感情が怒涛の勢いで圭を襲い、小さな身体の中で荒れ狂い、大きくてよくわからない感情の渦を持て余すことしか出来ない。



 そして圭は、



「あ″ぁ″ーー※△∂$♯⬜︎/>€?ゝヾ!!」



 言葉にならない声を感情に従うままに吐き出した。




 その日、幼い子の慟哭が世界中に響き渡る。




圭と同じように友達がいる者へ届き、


「泣いてる子がいる、私のかわりに行って」


他のあやかしや付喪神へ届き、


「なんて感情か、行かなくてはならん」


表立って動けない者たちへ届き、


「私達もすぐにあの子の元へ向かいましょう」


そしてある者は思う、ついに時が来たかと。



 こうして世界へ轟いた感情を中心に動いていく。



 いち早く孫の叫びを聞いた祖父母が駆けつけ、圭を力のままに抱きしめる。


 駆けつけた時に見てしまった鏡の破片。


「なんてことじゃ」


「圭、儂とばあさんを見ておくれ」


 圭の瞳は虚ろで、鏡の破片をただ見つめている。



 その日の夜、圭の様子を見て慌てふためく息子夫婦へと事態を告げる。


「圭は儂とばあさんと同じであやかしや付喪神などの類と触れ合う力を持っていると前に話していたじゃろ」


「父さんたちと同じっていうのは聞いてましたけど、何があったのですか」


「そばに付喪神の依代である手鏡の破片が落ちておった、恐らく圭はその場面を見ておる」


「付喪神が討たれた?」


「遊んでいた中に小鬼もいたが、どちらも何の害もないどころか圭を見守っておった優しき者たちじゃ、討たれた理由すらわからん」



 討ち滅ぼす事が出来る者など限られておる、その者たちは一体なにを考えてこのようなことを。



「圭は家族全員で寄り添い癒えるまでの時間が必要じゃ、あとは医者でも頼れればいいが」



 こうして今後の事を話し合い夜が更けていく。




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誰かに刺さるへきへの解放カウントダウン《1》

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