狸(魔魅)の穴

菜月 夕

第1話

『狸【まみ】の穴』


 自然は豊かだが、と言うより豊か過ぎる田舎だが、狸など見たことがない。

 いつぞやの狐ブームのせいか人里には日中でも人をそれほど怖れず狐がたむろしてるせいか、狸が夜行性のせいか居ると言う話しは良く聞くが存外に遭遇の機会は無かった。今日までは。

 夏の暑い日が続いたその日、外で仕事をしていたらすぐそばの山がガサガサと揺れる。熊か?狸より熊の心配の方が多い田舎なので身構えると、ひょっこり狸が。

 思わずみつめてしまったが狸もこちらを怖れるでもなく見つめ返していた。

 そしてこちらに手招きしてるようだった。

 誘われるようについて行くと狸は穴に入っていく。

 不思議なことにその小さな穴に私も入っていく。この時から私は狸に化かされているのかな、と言う疑問が頭をかすめるがそれこそ魔魅にはいったのかもしれない。

 狸や狐、猪や獺と人を化かすモノを魔魅と言うがこれがそうだったのだろう。

 やがて大広間のような所に誘われ大狸達が周りを取り囲んで呪文の様な歌のような儀式の中に先ほどの狸が人の姿に変わっていった。白い肌が眩しい裸の美しい女の子だった。

「私たち化け狸(まみ)はその魔の力を保つために定期的に人の気を欲するのです。

 今日は数百年ぶりの儀式の日。あなたのように今は少なくなった魔への怖れと憧れを持った人を探していたのです。さあ、私のもとへ」

 私はその裸身から目が離せなくなりその白い肌に………。


 気がつくと私は庭の草の上に座っていて気だるいうたた寝から覚めたところだった。

 なんつう夢だ。若い頃ならまだしもこんな歳になって淫夢を見るなんて。

 それでも賢者タイムのような気だるさは淫夢ゆえだろうか。日アタリしたかな。

 まあ、それで終わりの筈だった。一ヶ月ほどしてこの話を忘れそうになったころ、庭に無かった筈の穴から狸が出てきてこちらを見て、子狸を見せに来るまでは。

 あの時の子でしょうか。見せに来た?

 それから度々見るようになったので餌を置くようになった。

 野生の動物に餌を与えるのは良くない行為ではあるのだが、情を交わした仲となれば。

 いやまてよ、良く考えると狸って繁殖に2ヶ月はかからない?

 あんな夢を見せて子育ての助けにしようとしただけでは。

 ま、いいか。夢の代金だと思えば。

 次の日、親狸は子狸を3匹も連れて来た。おいっ!!


------ ちょっとアレなオチ -----


 よくよく見ると子狸を連れてきた親狸は雄のようだ。 

 雄は子育てはしない、と言うが。

 まてよ、あの時の狸(まみ)の穴はなんだったんだろう。

 親狸がニヤッと笑った気がした。

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狸(魔魅)の穴 菜月 夕 @kaicho_oba

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