第四話 


 集落入り口、その門構えには木の柱を模して作られたモニュメントがあった。元からそこに生えていた細木を無理くり縄で引き寄せその間を枝で埋めてまとめたものを、柱のように見せているようだ。よく見ても見なくても、それは壊れかけているのがわかる。今にも崩れ落ちてきそうな細枝を見てはぎょっとして、足早に退いた。

 柱の真隣に公衆便所のような木造の小屋があった。元からついていないのか通ってさえいないのか、明かりは無く真っ暗であった。

 そこで思い出した。門にはたしか、門番とは言わずとも管理人さんのような人がいたはずだ。最後の記憶が曖昧なため定かではないものの、たしかに人が居たはずだった。

 ここに無断で、入ってもいいのだろうか。

 そもそも町や市に入るのに許可は必要ない――ただ、ここはちいさなちいさな集落である。記憶のなかではたしかに許可、それに似た手続きが必要だったのだ。


 門のすぐ先にあるひらけた場所に出た。広場のようで、おそらく座るために置かれているのであろう、今では見なくなった瓶ジュースのコンテナがカラフルに配置されていた。

 舗装されている道とそうでない道を見比べると、どれほどのあいだ手入れがされていないのか雑草が生え放題であった。舗装されているといっても石タイルが疎らな感覚で適当に敷き詰められているものだった。

 目視で確認できるものと言えば、倉庫か住宅なのかもわからないような家屋が数件。木製の大きな台車にはしばらく使われていないであろう籠や枯れた草木が詰め込まれていた。

 ところどころに枝木が落ちており、葉っぱなどで荒れ放題だ。もう、整備が出来るほどの歳の人がおらず後期高齢者しかいないのだろうか。

 なにか製作途中であったのか、どうやら倒れてしまったのか立て掛けられた板材が幾つにも積み重なっているのが見えた。なんとも片付けが大変そうだ。どの家屋も同じようなもので、まるで暫く人が住んでいない古びた廃墟のように見える。

 広場の中央まで歩みを進めていた遙が突然、足を止めた。


 「誰もいない」

 遙が周辺を見渡してつぶやいた。

 「そう、だね。なんだか寂しいね」

 遙を追いかけてきたこともあり、息を整えながらも返す秋葉。

 こくりと頷いた遙は、周囲を見渡しながら、歩みを遅めながら先へ進んでいた。

 「着いたら先にご飯かなぁ。」

 またも、こくりと頷いた遙。そういえば、お互いに朝食のみでなにも腹に入れていないのだ。


 それにしても、変な雰囲気だ。

 いくら人が少ない集落と言えど、人っ子ひとり居ない広場なんて不気味だった。広場には井戸端会議をするような主婦やおばあちゃんは居らず、遊び回る子供でさえいなかった。そもそも、こんな集落では子供を作るには難しいことなのかもしれない――昔、そう考えて無理矢理納得させたのだった。母が、この集落で父以外の男との子供が出来た理由は仕方がなかったのだと。倫理や道徳というものは、こういった閉鎖的な世界では意味を成さないのだと、そう、父に聞かされていたのだから。


 まだ来たばかりだというのに、なんだか弾丸旅行でもしたような気分である。猛暑による疲労感もさながら、足が疲れたのだ。休みたいのが本音であった。

 なにより既に空はうっすらとかげりはじめていた。早いとこ父の実家へ辿り着きたかった。


 「……遙。お家ってわかったりする?」

 「わかる」

 たいへん、頼りになる妹である。

 秋葉は強く頷き、先導を取る遙に続いて歩みを進めたのだった。



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