練炭と君。それとカルビ

@ykib3827

第1話自殺サークル「天国会」

 私って本当に馬鹿だなぁ…

大学生活4年目になって再履修に追われている今日この頃。朝から晩まですでに聞いた話を聞かなければいけず退屈していた。まあ、それも今日でおさらばだからどうでもいいけどね。

 院にいってる先輩から自殺したい人が集まる天国会っていうサークルがあるって聞いたからね!これで私もこの世とおさらばだよ!

 大学の紹介ページからあーしてこーしてなんかしてっと。最後に学生証読み込んだら…よし!天国会にはいれた!

 えっと…今いる部員が2人で私が部長!?あ、もう一人の子は1年生か。若いのに大変だね。そっか…私部長か。私で42代目らしいし、しっかりしないとね。うん。

 あ、先輩いた。先輩が去年の部長だったんだ。ふーん、へー、あ、これ教授かな?若い!

 ふむふむ、天国会は活動場所は決められておらず自分で探すこと、サークル費は他のところからこっそり抜き取っているからあんまり気にしないでいい。仲良くすること。なんだ意外と普通だな。これなら私にもできそう。早速もう一人の部員と合ってみようっと。名前はえっと…早川凛ちゃん!




~翌日~



「初めまして凛ちゃん。私天国会の部長の横山由美っていいます。」

「ん…」

「どうしたの?魚の小骨喉に詰まってる?」

「ん」

「あー、確かにそうだね。初めて会う人って緊張するよね。でもこれから一緒に死ぬんだし緊張しない方が楽だよ?」

サークル費で借りたウィークリーアパートで話す2人。これから一緒に死ぬ二人。お互い何があってここに来たか知らない。でもそんなのどうだっていいよね。あーなんて気楽なんだろ。これから先のこと考えないでいいし、これまでのことだって全部なかったことになるもん。凛ちゃんも同じ気持ちかな…?

「それでさ、死ぬにしたって苦しいのって嫌じゃん?」

「ん」

「だからだんだん意識なくなっていく系の練炭なんてどう?」

「ん」

「いいの?じゃあ早速買ってくるね」

 七輪を吟味してもよくわかんないからとりあえず2人で使うのにちょうどいいのを見繕ってっと、炭は早く楽になりたいからおが炭…あ、でも長持ちしないと死ねないかな?備長炭も買っておこう。それと服に火の粉行くの嫌だし、上は空いていないと燃えなさそうだから網を買って…あ!お得用!お得って言葉は女の子を夢中にさせる悪い魔法だよなむなむ。それと最期だしあれとあれを…




「ただいまー」

「ん」

「いやー重かった重かった」

「ん…」

「え?あーいいよ。買い物代わりにここを綺麗にしてもらったんだし。」

「ん」

「そだね。じゃあ早速始めようか。」

 テーブルとベッドしかない部屋に七輪が置かれる。場違いを主張するかのように熱を持ち部屋を暖める。密閉された部屋、向かいに座る下級生。これから消えるであろう2人の未来を燃料に炭が燃える。すべてを諦めた表情の凛、買い物袋から出てくる小皿、2人前の米、そして香ばしく何かが焼ける音が静寂の中響き渡る。

「ん!?」

「いやさ、どうせ死ぬんだし幸せになってから死にたいじゃん?」

「だからどうしようかなって思いながら買い物してたらさ、手にあるのは七輪と炭!」

「ん?」

「これ焼肉できるじゃん!ってことでお肉かって来ちゃった」

「…。」

「ほらほら私肉奉行するからどんどん食べて!そしてお腹いっぱいになって一緒に死のう!」



わけがわからない。なんなんだこの人は。

 私はずっと親の道具だった。親の言う通り遊ばず、友人も作らず、ずっと神様の本を見てた。もちろん学校では気味悪がられて話しかけられなかったし、家では勉強、そして神父様って人の話を聞いたり、1日中懺悔室に一緒にはいったりもしてた。あいつらがこの世からいなくなってからはやっと自由になれたって思った。だから自由が校風なこの大学に入ってやり直せる。友達が出来る。私も幸せになれるって勘違いしてた。

 服がくたびれて髪もぼさぼさに伸びてる。やせっぽちで小さい。みんなの話が分からないどころか口が空かない。同い年の人が怖い。結局私は幸せになれない。ずっと親の道具なんだって気づいてしまった。ならもういいや。早く楽になろう。どうせこのままなら親が一緒の方がましだったかもしれない。そう思って噂で聞いた自殺サークルに入ってみた。親の崇めているところに行くためのサークルだなんて私にピッタリだと思っていた。

 しかしこいつはなんなんだ?「ん」だけで会話出来てるし、悩みなんてなんにもなさそうだからよっぽどのことがあったんだなぁと思っていたのにどうせ死ぬなら幸せ?そして焼肉!?訳が分からない。

 紙皿に積まれた山盛りのお肉。タンはやっぱ塩だよねえとわけのわからないことを話しながら塩をかけてレモンを絞るよくわからない人。自信ありげな顔から早く食べろと言っているのが分かり口に運ぶ。

 レモンの味しかしない。いや、塩辛い!なんなんだ、なんなんだこれは。味付けもできないくせに、肉も結構焦げてるくせに、なんで笑えて来るんだろう。

 パックに入ったご飯を今までしなかったようにかきこみお茶で流し込む。煙が充満しだしてあまり見えないがあの人は笑っている気がした。



 買ってきたお肉も残りはカルビを残すだけとなっていた。さっきから意識がもうろうとしてきて人生もあと少しなんだと感じる。

「ん…」

「ん?ああ、そうだね」

どうせ死ぬなら一緒にと凛ちゃんが隣に来た。ここは天国会。部員と仲良くすることも活動の一環だもんね。一緒に食べて、そのまま寝ちゃおうか。

 たれをつけたお肉を一緒に口に運んで味をかみしめる。お腹もいっぱいになったし、炭を付けたまま凛ちゃんを抱えてベッドに入る。うわっ軽い!もっと食べなきゃだめだよ?あ、でももう食べなくなるからいいか。

 さっき会ったばかりの人と一緒の最期ってなんか物語みたいだなあ。そういえば小さいころお姫様にあこがれていたっけ。

 小学生のころにはもう忘れていて、確かゆめがケーキやさん?だったっけ?わかんないや。

 中学生の私はモテたな、うん。われながらいいからだしてるとおもうしおなかはでてるけどでぶじゃないし

 高校生になったらなにかしたっけ?あれ?あんまおぼえてない。いきてたっけわたし?

 そういえばさっきのやきにくおいしかった

 こめも

 りんちゃん

 あ…

 あ

 あ…。









「こんなに暑いのに幸せなわけないだろ!!!!!」

窓を全開、体は全裸、ついでに凛ちゃんも脱がせる。何から何まで汗にまみれ、ベッドなんて焼肉の匂いと混じってひどい匂いがする。こんなので死ねるか!

「ん…。」

「こんなの全然幸せじゃないよ…。もっといい死に方ないの?」

「んーん」

「まあ、そうだよね。わかんないよね」

「ん」

「わかんないなら考えろって?それもそっか」

考える…かんがえる…カンガエル…

「お腹いっぱいだし寝よっか」

「ん」

「いーの、あとは寝て起きてすっきりした私たちにでもまかせようよ。そしたらきっと…」

 きっと幸せにね…

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