第640話 概算で……

「ラベンドラや」

「どうした? ガブロ?」

「骨切りした『――』は無いんか?」

「出そうと思えば出せるぞ?」

「じゃあそれを湯引きして握ってくれ。あっちにはあっちの良さがある」

「そうか」


 みんなが思い思いの注文をする中、ガブロさんが放った一言は、ラベンドラさんの調理士としてのプライドを刺激した。


「俺の骨切りか? 欲しけりゃくれてやる。頼め! この俺の技術をそこに詰め込んだ!!」


 その一言が、男たちに注文を駆り立てる。

 今宵まさに、大海鮮時代……!!


「私も鱧―!」


 なお、当然のように女性もいるもよう。

 というか、何今の脳内に響くアナウンス。

 とても聞き覚えがあるようなものだったんだけど……。


「あ、俺は普通にマグロの炙り寿司で」

「うむ」


 ちなみに言われたイセカイハモの骨切りは、風魔法であっさり終わらせてた。

 秒速で。

 で、骨切り特有の身の表面になったイセカイハモを湯引きして、ガブロさんのリクエストでカボスを絞って提供。

 ……美味そうだな、ズルいな。


「こっちのワインもうめぇ」

「これまたサッパリ系。全然お寿司の邪魔をしない……」

「な? カケルや姉上の用意するワインは俺たちの知るワインより遥かに美味いんだって」

「戻ろうと魔法陣を潜る時に神様が全没収するぐらいなのですもの」

「はよぅわしらの国のワインもこの美味さが標準にならんかのぅ」

「何年先の話をしている。我々エルフ族はともかく、ドワーフはそこまで長く生きられないだろうが」

「? 酒の為なら余裕で生きるぞい?」


 ……。

 ヘイ神様、ドワーフの寿命がどれくらいか教えて?


(エルフの半分くらいじゃな)


 ハイエルフやダークエルフは?


(ダークエルフはエルフととんとん。ハイエルフはエルフの倍じゃな)


 となるとハイエルフはドワーフの四倍の寿命を持ってるのか。

 人間と比べたら?


(ドワーフの寿命がおよそ人間の2~3倍じゃな)


 ……てことは下手したらリリウムさんは四桁歳越える可能性があるのか。

 今いくつくらいなんだろう……。


「? カケル? 何か私の顔についていますの?」

「あ、いえ。ナンデモナイデス」


 危ない危ない。

 怒らないとは思うけど、一応リリウムさんも女性だ。

 年齢の事についてはむやみに気にしない方がいい。

 ……俺の本能がそう言ってる。


「スッと飲めてやや塩味。香りは最初に華やかに香るだけ」

「酸味もそこまで強くねぇし、微発泡のおかげか香りもふンわり丸く仕上がってやがる」

「『――』にも合うが、やはり白身の方に合うな」

「カボスとの相性もバッチリじゃわい」


 二本目のワイン……白の微発泡ワインなのか。

 こちらも優秀っぽいですわね。

 どれどれ?


「おー……」


 イセカイハモを炙って貰ってこちらもかぼすを一絞り。

 かぼすの酸味とイセカイハモの甘みが絶妙な交わりの一貫の後。

 本日二杯目のワインをいただけば、確かに香るのはフルーティなアロマ。

 柑橘系を彷彿とさせる香りに、菜の花を思わせるような香り。

 酸味と、アメノサさんは塩味って表現してたけど、俺としては苦みの方を感じるかな。

 んでなぁ、その苦みがまた合うんだ。

 酸味の香りを下支えするみたいな働きで、よりイセカイハモの美味しさを底上げしてくれる。

 ははーん? さてはこの食材、神様がワインに合うようにチューニングしたな?


(ドキリンこ)


 いつの時代の擬音だよ。

 平成初期か? なんならもっと古いな。

 というか、やっぱりあなたの仕業ですか神様。

 ワインに合い過ぎると思ったんですよ……。


(ちゃんと日本酒や焼酎にも合うようにしたわい)


 そういう問題ではなくて。

 というか、別に問題という訳でもなくてですね……。

 一応、理由だけは聞いておきますか。


(暇を持て余した……)


 ……神々の?


(遊び)


 しばらくワインは無しでいいかな。


(ちょ、待たんか!)


 どうしました?


(ちゃんと八百万たちの許可は取ったぞい!?)


 そりゃあ、そっちの世界の食材をどうチューンしようがこっちサイドの八百万の神様たちが文句言う訳ないでしょ。


(むぅ……)


 むぅ、じゃない。

 このままだと、アメノサさん達がこっちのワインは異世界の食材に合い過ぎるって誤解して帰っちゃうでしょ?


(……何か問題が?)


 ……無いですね。

 ほな大丈夫か。


「カケル、もういいのか?」

「あ、食べます」

「では一品私に任せてみないか?」

「お願いします」


 神様と漫才してたらラベンドラさんから声を掛けられた。

 一体どんなお寿司を握って貰えるんだろう。


「赤身とクリームチーズだ」

「めちゃめちゃ美味そう」


 で、お出しされたのはイセカイマグロの赤身の上にクリームチーズを乗せた一貫。

 いや、こんなの美味いに決まってますがな。


「いただきます」


 ……~~!!

 最高!!

 イセカイマグロのねっとりとしたうま味と、クリームチーズのコクと滑らかさがベストマッチオブザイヤーを受賞。

 ちょっと乗せられたオリーブっぽい香りの果実がまたいい味出してる。

 そのちょっとのアクセントが、全体を引き締めて味のまとまりを一段上に押し上げてるね。


「ワインも合う~」


 で、クリームチーズが合わさった事でワインとの相性もうなぎ登り。

 マグロだけど。

 ここに来てまた新たなお寿司を握るなんて、……ラベンドラさん、恐ろしい子。


「今の私にも頂戴」

「こちら全員に下さいな」


 なお、当然のように俺の後に続いてみんなが頼むもよう。

 そしてみんなこれこれ、みたいにヘドバンしながら食べてるの本当に笑う。

 ……あとで神様にもあげますからね。


(うっひょ~い!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る