第639話 神の合いの手

「……」

「……」

「……」


 あーあ。

 みんなが黙っちゃった。

 それもこれもラベンドラ君が美味し過ぎるお寿司を握るからです。

 反省してもっと握って。


「強すぎない酸味と芳醇な香りが寿司にピッタリな相性だな……」

「後味の柑橘っぽいニュアンスが、先程のワイン同様に脂の重たさを中和しますわね」

「まろやかな余韻も、美味過ぎた寿司の後味を長く楽しませてくれるの」

「……ワインも美味しい」

「よくもまぁ、こんな合うワインを見繕える」


 ちなみにワインも相性がいいっぽい。

 まぁ、白ワインだし。

 あれだよね、加熱したら身の色が白っぽくなるのは白ワインが合うってのが基本なんだよね?

 つまり加熱したマグロには白ワインが合う……?


「ガーリックの香りと、オリーブオイルの香りがまたいい味出してるわね」

「マジもんの肉よりもこのステーキ美味いかもね」


 なお、俺と姉貴の総評はこうだ。

 まずそもそも、しっとり柔らかく、例に漏れず口に入れただけでとろけるイセカイマグロの頭トロ。

 その旨味と甘味と脂のスープに、イタリアンで引っ張りだこのオリーブオイルとガーリックの組み合わせ。

 ガーリックがあるだけで一気にパンチのある味わいになり、これまでになかった旨味の鋭さがここに来て登場。

 かと思えばオリーブオイルのほんのり苦いアクセントが、より一層頭トロの甘みを強調してて。

 またオリーブオイルがシャリにも合うのよ。

 で、当然のようにワインに合う、と。

 ワインはアレだね、こう……キウイとか、パイナップルとか、酵素系が多いフルーツっぽい香りが真っ先に来る。

 と思えば、実際に口に入れて広がる酸味は、異世界組の言う通り程よいもの。

 顔をしかめるような酸味でも、咳き込むようなアルコールの強さでもない。

 マジで丁度いい、という言葉がピッタリなワイン。


「ふぅ……」

「一通り出したがかなり満足しているみたいだな」

「満腹ではないのですけれど、それはそうと満足していますわね」

「美味い酒、美味い寿司。これが一番の贅沢だろ」


 さもありなん。

 実際、自分の好きなネタを好きな酒と共に楽しむって為なら、結構な金額を支払うって人も少なくない気がする。

 その場合のネタとか、酒とかがそもそも高額だからだけども。


「お前らは正直適当に握っても食うだろうから、カケルや姉上のリクエストを優先的に受ける」

「異議なし」

「えー……じゃあ鱧の湯引き。梅ポン酢ジュレのやつ!」

「姉貴と同じもので」

「分かった」


 で、ここからは一度食べたお寿司たちのリクエストタイム。

 どれもこれも美味しかったし、どれが出て来ても笑顔で食べる自信があるな。


「む、そうだ」

「?」

「こちらで言うガリに相当するものだ。これからは味の濃さや脂の強さがバラバラになるだろうからな。ワインで消せない可能性がある」

「なるほど」


 で、お出しされるは――ヒマワリの種?

 しかも殻を剥かれてるやつ。

 だーい好きなのはー! \ハイセーノ/

 ヒーマワリの種ー!


(わしもー!!)


 ……まさか神様が乗って来るとは思わなんだ。


(結構ワインに合うんじゃぞ?)


 さいですか。

 というか、今の掛け合いすらカバーしてるのかよ。

 あまりにも地球文化……というか、日本のオタク文化に精通し過ぎてない?


(知れば知る程楽しくてのー)


 あ、これ手遅れですね。

 どっぷり沼にハマってますわ。

 ――ぬるぽっ!


(ガッ!!)


 うん、手遅れ。

 神様は毒されてしまった。


「リクエストされた握りだ」

「ありがとー♪」


 おっと、そんなやり取りをしている間にお寿司が握られてしまった。

 とりあえず異世界のガリを頂こう。


「ほー……へぇ……」


 まず食感は普通にヒマワリの種というか、乾燥した豆、みたいな。

 ポリポリした食感で噛んでると……なんだろうな、ミントというか、こう……口の中がスーッとする感じ。

 ハッカとかじゃないんだよな、なんだろう……難しいな。


「やっぱこれ美味しい。天才だね」

「まぁな」


 さて、口内をリフレッシュしたし、いただきますか。

 ……うめぇ。

 最初程の衝撃は無いにせよ、身構えていてもうめぇってなるもんな。

 あと、イセカイハモとイセカイマグロの旨味の質が違うな。

 例えるなら渓流と滝。

 絶えず旨味が流れてくるイセカイハモと、旨味で押しつぶそうとしてくるイセカイマグロって感じ。

 どちらがいいとかじゃなく、どちらも美味い。

 やはり異世界食材、異世界食材は全てを解決する……。


「ステーキ握りを10貫」

「あ、私もお願いしますわ」

「とりあえずはそれだな」

「私の分はいい。カケル達と同じものを頂戴」

「あとワインも次の開けといてくれよ」

「んじゃあはい。次の」


 色々とツッコみたいな。

 とりあえず、いきなり10貫もまとめて頼むな。刻め、段階を。

 そしてみんな乗るな、それに。

 アメノサさんはいいや。異世界組の中では小食族だから。

 で、ナチュラルに次のワインを要求するな『無頼』さん。

 もう虜じゃん。現代ワインの。

 最後に姉貴、これまたナチュラルにワインを渡すな。

 任せるな、異世界組に。


「カケルはリクエストは?」

「あ、じゃあヅケのやつをお願いします」

「任せろ」


 全く……あ、新しいワインこっちにもお願いします。

 ツッコミ役が足りねぇ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る