第9話


「っ...」


俺は全ての出来事を思い出した。

 俺の前でラーラは死んだ。別れの挨拶を交わさずに殺された。村を襲っていたのは竜、竜とは人間と天敵と言われている。


「フロックさん、竜ってなんなんですか。何故村が襲われなくちゃならなかったんですか...」

「...人とは神が生み出した産物。だが人は弱くすぐに死んでしまう。だから、人間を守る為に竜が生まれた。人と竜は本来共同する生物だった...だが、一部の竜が自分より弱い生き物に指図される事を疑問に抱いた。何故、竜は人に支配されなくちゃいけない。本来支配されるべきなのは、弱い人間のはず...竜によって人間は邪魔であり、滅ぼされるべき。だから、始祖の竜は人間に刃向かった。竜とは人を滅ぼそうとしている神を裏切った怪物だ」

「それで、母さんや...村のみんなが無差別に殺されたんですか」

「ああ、そうだな...他に理由はあるけどな」

「...」


弱肉強食な事は知っている。

 弱い者は強い者に殺されるのはしょうがい。俺はそう言う世界に生きていた。何人も何人も俺の大切な人達は死んでいった。この世界でも変わりはない...でも


「慣れねぇな」


母さん、父さん...


「この世界を恨んでいるか。竜を恨んでいるのか?」

「恨んでいる...分かりませんね。でも父さんや母さん...これから生まれるはずだった、俺の妹か弟になる子は幸せに生きようとしていた。それを壊した存在は許せません」


 俺は大切な人を無くし続けた。涙なんてもう渇きっている。


「そうか...ラーラは2人目の子を宿していたのか...殺されたのも納得いく...馬鹿者が、ちゃんとワシらの言う事を聞いていれば...」

「...フロックさんって母さんを知っているのですか?」

「ああ、昔からよく知っている...小僧、ついてこい」


フロックはある場所に案内をされる。

 少し進んだ先には、無数の石が建てられていた。

どうやら、フロックさんが亡くなった村の人達を供養してくれたのだろう。


「ここは?」

「お主の母の墓だ」

「そうですか、墓を作ってくれていただきありがとうございます」


石にはラーラ=カグラビュールと刻まれている。


「小僧、これからどうするんだ?」

「分かりませんね」

「...そうか。ラーラはどうだった?」

「え?」


フロックは突然と質問をする。


「物凄く強い人でした。そんな人が殺されたなんて、今でも信じられません」

「そうだ。ラーラはガキの時から強かった。少々、頭は弱い所はあるが、ワシが見た中で強い人だった」

「...そうでしたか」

「ラーラは、ワシと喧嘩したきり出て行ってしまった。だが、10年前に帰ってきたのだ。その時はアリスと言う子を腹の中に宿していた」

「...え?フロックさんって母さんとどう言った関係なんですか?」

「...ただのお節介なおじさんと聞き分けの悪い子だ...そんな聞き分けの悪いラーラはお主を宿した事に、嬉しそうに笑っていた。あんな笑顔は人生で初めて見た。彼女は子供時から笑顔な下手な子であった」


笑顔な下手な子?

 そんなの信じられなかった。ラーラは毎日の様に笑っていた。ラーラの笑い声は俺やガイ、村の人達が癒やされていたのだ。ラーラの明るい性格のおかげで、村は賑やかだったんだ。


「それから毎年、一通の手紙を送ってくるんだ。前までは口すら聞いてくれなかったのに、手紙を寄越すなんて生意気に育ってしまった」

「手紙ですか?」

「ああ、全てお主の事について書かれている。ウチの息子は天才だとか、自分に勿体無いぐらいよく出来た息子だと語っていた」

「え?」


ラーラは一度も俺を褒める事はなかった。


「そして何より、お主の笑顔が好きと言った」

「っ?!そうですか」

「すまなかった。もっと早く駆けつけていれば...もっと早く気づいていれば、お主の母を...お主の父を失くす事はなかった」


 フロックは平然な顔をしているが、肩は震えていた。その場で膝をつき、俺を優しく抱きしめる。


「ふ、フロックさん?」


フロックさんとは初対面なはず。

 だが、ラーラの様な面影と温もりを感じた。

何年ぶりだろうか。いや、この世界では初めねだ。俺は初めて涙を流していた。


「アリス、行く当てがないのなら、ワシの所に来ないか?」


 もしフロックさんが村に来なかったら、俺は1人でどうしてたんだろう。また、前世の様に世界を恨み、化け物として恐れられていたのだろうか?再び俺は過ちを犯していたのだろうか?


ラーラ、ガイ、村のみんな...守れなくてごめん




第九話 『旅立ちの日』

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