第8話
「...なんだ?ここはどこだ?」
目の前の風景は知らない洞窟の天井。
俺は買い物を任されて隣村から帰って居る最中だったんじゃないのか?ここはどこだ?
「起きたか、小僧」
「...アンタは誰ですか?」
俺の横で髪のないご老人が焚き火にあたりながら本を読んでいた。状況が飲み込めず混乱している。
「あの...」
「まずは、自分から名乗るのが礼儀ってモノじゃないのか?」
「あ!すみません」
俺は慌てた様子で正座をして自己紹介をする。
「申し遅れました、俺はアリス=カグラビュールです」
「カグラビュール?そうか、お主が奴の息子であったか。その割には礼儀正しいな」
「奴?」
「いや、何でもない。ワシはフロック」
「フロックさん、一体ここはどこですか?俺は買い物の帰りだったと思いますが...」
「覚えておらんのか?」
はて?覚えてない?何のことだろう?
え?もしかして、俺この人に誘拐されちゃった?
「えっと、何のことでしょうか?」
「そうか。なら、ワシについて来い」
「はぁー?」
フロックは立ち上がり、彼に着いて行く。
外に出ると、外は満月に照らされていた。
どうやら、今は夜のようだ。
「...え?」
そして山の下から見える光景に驚く。
そこは燃え殻の村。煙が出ている事から、村が燃えたのはほんの数時間前のようだ。
だが、その村はどことなく見覚えがある。
「えっと...」
違う。似てるだけだ
「何があったのでしょうか!」
「襲われたんだよ。竜種の群れを率いる
違う、ちがう。あそこは...
「
「ああ、あそこはかつて平和な田舎村...その村の名前はインティウム。お主の故郷だ」
「は?」
「村の者は全て食い殺され、燃やし尽くされた。生き残っているのはお主、ただ1人だ」
このおっさんは何を言っているんだ?全然笑えない冗談だ...
「そうだ。村は炎の海に...!」
思い出した。
俺は村から帰る途中に、村の方向から大きな炎の渦が円を描く様に回っていた。
ーーーーー
「おいおい、何なんだよ!...母さん!父さん!」
影を纏え、
俺は今までにないスピードで、村の方向へ駆け走る。村に辿り着くと、燃え上がっている死体や、物語に出てくる翼のない竜の様な怪物が、人々を食い荒らしていた。
「グルルッ!」
俺の存在に気づいたのか、その怪物は俺を噛みつこうと飛び込む。だが、あらかじめチャージしていた稲弾を飛ばして頭部に風穴を開けた。
大丈夫だ、母さんと父さんは強い。
俺は母さんと父さんの力を知っている。
簡単にやられる訳がないと、自負していた。だが、この胸騒ぎはなんだろう。簡単にやられないと頭で分かっていても、なぜか心が落ち着かなかった。
「...うそ」
家に辿り着いたら、あり得ない光景を見た。
人間の姿をしているが青黒い肌をして、翼が生えていた。その怪物の右腕は、ラーラの心臓を貫いていた。
何でだ...俺は今まで何の為に強くなろうとしていたんだ?そうだ...俺が強くなるためは大切な人達を、もう失わない様にするためじゃなかったのか?
「...母さんから離れろぉぉお!!!!」
「ん?まだ生き残りがいたか...なっ?!」
俺は怒りのあまりに、怪物の左腕をちぎり飛ばした。
「なんだ!お前は?!」
「死ね!死に晒せよ、クソ野郎!!」
奴は驚愕した表情で右腕をラーラから抜き、飛び込む俺と応戦する。
「楽に死ねると思うなよ」
「こんなガキから、どこから力が湧いている?!」
両腕にしか纏わせられなかった影が、怒りの力によってムカデの呪印は右頬までに歩く様に伸びる。まさに今の姿は飢えた獣。目の前の敵にしか眼中になかった。
「だが、所詮ガキはガキだ!驚かせやがって!俺が万全な状態ならお前のようなガキなんぞすぐに殺せるわい!」
吹き飛ばした左腕が生えていたことと、怒りに任せて行動していた俺は油断した。奴の手刀は俺の右腕を斬り飛ばした。
「ほぉ、腕を飛ばされて顔色一つ変えないのか...」
「どうせ、くっつく」
斬られた腕と、斬り飛ばされた腕から影が伸びて交差する。地面に落ちている右腕は俺の身体に戻ったのだ。
「お前人間か?」
「黙れ、もうアンタに喋る権利はない。すぐに死ね」
俺は心臓に刻まれている、呪われた神器を取り出そうと胸元から神器の握りを掴んだ。体内から現れたのは、俺の144センチの身長を軽く凌駕する巨大な真っ黒な戦斧。斧刃の大きさの割には持ち手が短い。
「
それは俺の中に潜む、影の力の元凶。
呪われた神器が、俺の魂に刻まれていた。
「なんなんだよ、それはぁ!!!」
「
「やべ...」
一閃で、地面を抉りながら前方へ向かう5つの斬撃を飛ばす。まさに獣の鉤爪であった。俺を子供として認識しているのか、油断していた怪物は避けるのに遅れをとってしまった。いや、正確には避ける事はできなかった。なぜなら、奴は俺と戦う前から瀕死の様にボロボロだったからだ。
奴が万全な状態なら、俺は瞬殺されていただろう。
奴が瀕死のと、俺を子供と舐めていた事が敗北の原因であった。肉体を5つに分かれた怪物は絶命する。
「母さん!」
俺は地面に横に倒れている、ラーラに駆け走る。
母さんと読んでも、いつもの様に返事は帰ってくる事はなかった。
ラーラは呆気なく死んだ。
その言葉が脳裏によぎる。
失うことを慣れているはずだった...だがら、今度こそは大切な人を失わない様に強くなろうとした...
それの意識はそこで途切れた。
そうだ、全て思い出した。俺はまた全てを失ったんだ...俺は望んでいた平和が続かなかった。
俺を照らす満月の光は、影によって暗闇に呑み込まれるのだった。
第八話 『始まりの物語』
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