一話 生き返った?
朝日に瞼を焼かれ、目を覚ませばいつのまにか俺、イナミはゴミの山に寝転がっていた。
あれ、生きてた。
起き上がれば体の節々が悲鳴を上げるが、立てないほどではない。
そういや、刺された腹はどうなったと服を捲れば血がついていなければ、腹に穴も空いていなかったが代わりに丸い形をした絵が描かれていた。
腹を擦ってみたが絵は取れないので、一旦置いといて裾を戻す。
全て、夢だったのか。
いや感触や温度を今でも感覚として覚えている。あれが夢なはずがない。
グルグルと回転する脳内、訳も分からず壁に挟まれたゴミの山を抜けて光が差す方に出てみた。
そこは、先ほど居た帝都ではない街だった。人通りもそれなりにあり、店も並んでいるから栄えた街ではある。
「あの、すいませんここは」
と行きかう人に話しかけたが皆聞こえていないふりをして、足早に去っていく。
これはおかしいと気がつき辺りを見渡してみると、ふとショーウインドーに映る自分の姿が目に入った。
その姿を見て叫びたくなるほどに足がよろける。
「嘘だろ……誰だよ、お前」
窓に映るのは、痩せこけた体にブラウンの髪色をした青年。服装は制服のような白い服だが、茶褐色の汚れをつけ、あちこちに穴だらけと何かしらのトラブルに巻き込まれたとしか見えない。話しかけられても無視される理由を理解した。
そして、自身は幸が薄そうな青年でもなければ、筋肉がついていない痩せた体はしていない。
「禁術の一種か?こんな術、聞いた事ないし見た事もないな……」
嘘だろと、茶色の髪をあげたり、頬をひっぱってみたり、ガラスを触ってみたり、としたが全てが視覚、感覚となって返ってくる。
夢ではない、現実だ。
「何あれ」と無垢な声が聞こえて、後ろを振り返れば奇妙な行動をしていた自分に、周りは白い目で見ていた。
「兵士を呼んだほうが」と小声で会話をしていてやばいと思い、ショーウインドーから離れた。
「お前っ! こんな所にいたのか」
すると、向こうから肩を錨のように吊り上げ迫ってくる者がいた。同じ制服を着た謎の若い男は、両手に食材を詰めた袋を持ち。こちらに近づいてきては一つの袋を投げつけた。
袋の中身をぶち撒けないようイナミは体全体を使って受け止めて、尻餅をつく。
「えっと……」
「いいから、来い。一週間も姿を眩ましやがって……というかなんだ、その汚い格好はーーー野良犬とでも遊んだか」
腕を掴み無理矢理立ち上がらせ、どこかに連れて行こうとする男。
手を払おうと抵抗してみたが、しっかりとした力がある手に、細く骨のような腕と手では敵わず、たどたどしく付いて行くしかなかった。
「俺はどこに行く……ですか」
「はぁ……寝ぼけるのも大概にしろ。やる事は忘れるくせして、自分の事も忘れたのか」
「……そうですね」
「こんなところで記憶喪失ってか。役立たずも、ここまでくればタダ飯食いだな。犬の方が役に立つんじゃないか。リリィ」
大きなため息を吐いては、男は商店街を抜け下町を突っ切り城下町に向かう。
以前の体の持ち主は仕事で何をやってしまったのか、知らないが酷い言われようである。
一週間も逃げ出す理由が分からなくもない。
そうして、男に連れてこられた仕事場は、大きな屋敷だった。
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