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第一議会が終わりを告げ、同時に私こと山県有朋は辞職を決意した。無論そうなると決めねばならないのは次期首相だ。私を含め政府上層部は議論を重ね、ある人物に確定した。
『という訳で松方。頼まれてくれるか?』
「ええええええええ!!!!!!!????」
天皇陛下の御前にて、松方さんは大声で叫ぶ。
「どどどどどうして僕が!?」
『他に候補者がいないのだ……』
「そ、そんな」
松方さんは口をあんぐりとさせていたが、なにかを思い付いたように顔を輝かせて私の方を向く。
「そうだ!山県君が続投すればいいんじゃないか!それだったらっ」
「松方さんには申し訳ないですが、体調不良で……」
第一議会の心労が祟り、現在すこぶる具合が悪い。松方さんに涙目で見つめられても、その任を引き受けることはできない。大変申し訳ないが。いや本当に申し訳ないが。
私が頼りにならないと察したのだろう、松方さんの顔色が徐々に青く変わっていく。
「ま、待って、本当に私が!?」
『頼む、松方』
「……」
迷うようにおろおろとするも、松方さんは人が良く押しに弱い。ましてや陛下からの頼みだ、拒否しづらいだろう。
結局自信なさそうにしながらも、ゆっくりと首を縦に振った。
陛下への諸連絡を終え、私と松方さんは宮中を後にする。ただその道中、松方さんは苦悶の表情を浮かべて苦しげにため息をついていた。
(松方さん……)
気持ちは痛いほどわかるが、だからといって首相を続けていたら私のメンタルがポッキリ折れてしまう。それは絶対にできない。
(気休めかもしれないが贈り物でも手配するか……)
酒か何かでもと考えていると、ふと博文が楽しげにみせてきた手遊びが頭をよぎった。
「松方さん。手を出してください」
「……?なんだい?」
松方さんは手のひらを差し出す。
私は両手に力を込めて桜の花びらを作り、彼の手のひらに落とした。
「これは……?」
「えっと、これはその……」
しまった。どう答えるべきか全く考えていなかった。
(元気付け……いやいや、そんなこと言ってもいい気分しないよな……)
仕方なく、でっち上げを言うこととした。
「その、信託のようなものです。松方さんの政権を支持するという意味でして……」
「……そうか」
松方さんは手のひらを見つめ、ぎゅっと握りしめた。
「ありがとうね、山県君。そうだね、そこまでネガティブにならなくてもいいのかもしれないね」
「ええ。内務大臣は私の後輩に担当させますし、陸奥も引き続き農商務大臣ですので」
次期内務大臣は正義感が強すぎる面はあるものの、実力は折り紙つきだ。松方さんを助けてくれるだろう。私が保証する。
陸奥はいわずもがな、伊藤が信頼を置いている優秀な政治家だ。少々過激な面はあるものの、第一議会のように議会を調停してくれるだろう。
なんてことを一生懸命伝えると、松方さんは微笑んでくれる。
「うん、そうだね。……僕頑張ってみるよ」
どうやらいくらか気を取り直してくれたようだ。
(よかった。博文のふざけた遊びも役に立つものだな)
私はほっと胸を撫で下ろし、松方さんと次期議会対策について話し合うことにした。
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