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それは、私が待ち望んでいたものだった。
「待て君たち!」
その声に、立憲自由党員と立憲改進党員は怪訝そうに振り返る。
「貴様、何者だ?」
「私は大成会のものだ」
「大成会……?ああ、政府を支持する腐敗集団か」
彼らは立憲自由党や立憲改進党以外の第三勢力の政党である。他の政党とは異なり、政府の味方をしている。
だから他の政党からは政府の犬だとかなんだとかと言われているが、大成会の彼はそう思っていないらしく顔を歪める。
「わたしたちは君たちとは異なる立場で政治に携わっているだけだ。政府の操り人形とはまた違う。いや、ひとまずそれは置いておこう」
彼は咳払いを一つすると、議会全体に聞こえるような大声で言う。
「私は議会の皆に問う。国家にとって必要不可欠な予算を減らする場合、先に政府へ同意を求めるべきではないかと!」
明らかに政府寄りの意見に、二人は侮蔑を込めて男を睨む。
「今更そのような意見を問うのか」
「時間の無駄だと思いますがね」
そんな皮肉には応じず、大成会の彼は議員たちに訴える。
「もし私の意見に賛成の者は、羽を捧げよ!」
男が手を挙げると、何人かの議員も手をあげ、雉の羽が一つに集まる。
羽は緑色の玉になると形を変えていく。
三角の形の耳につぶらな瞳、くるんと巻いた尻尾は柴犬のようであった。
しかしただの犬に存在しえない、まるで猪のような立派な牙をも持ち合わせていた。
「それが貴様ら大成会の神託獣というわけか。だが、我々に勝てるかな?『立憲改進』!」
クマは一声吠えると、その神託獣を爪で引っ掻こうとする。
しかし獣は動じることなく『立憲改進』を睨むと、その鋭い牙で爪を受け止めた。
今まで余裕そうにしていた立憲改進党員は大きく目を見開く。
「なんだと……!? 力が拮抗している!?」
「大成会はわたしたちよりも議員数が少ないはず。なのにどうしてここまでの強さを……!?」
それどころかクマは徐々に押されていき、ついには突き飛ばされてしまった。
獣はクマの上に乗ると、大きく口を開いた。すると緑色の光が凝縮しはじめる。
「あれは<民意>!?」
立憲改進党員が驚く目の前で、その光線は容赦なく『立憲改進』に命中した。
クマは雉の羽を散らし、その場から姿を消した。
「な、なぜだ……!? 我が党と立憲自由党がこちら側であるというのに、どうして負けてしまったんですか!?」
立憲改進党員が信じられないといわんばかりに呆然とする。
しかし、立憲自由党員の一人はハッとしたように顔を上げる。
「まさか……!」
男の視線の先には、ある人物がいた。
その人物とは、今回の議会で不自然なほどに存在を消していた男にして、緑色の霊体を持つ男。
立憲自由党のトップ、板垣退助だった。
彼の周りでは、土佐出身の人間があの獣に羽を捧げている。
その光景を見た瞬間、立憲自由党員と立憲改進党員は理解した。
彼らが大成会側に回ったことで『立憲改進』が負けてしまったことを。
「板垣さん、裏切ったのですか!」
怒気を含めて叫ぶ立憲自由党員に、板垣さんは緑色の瞳を申し訳なさそうに揺らめかせ、体を透明にさせる。
「すみません。ですが第一議会を失敗に終わらせるわけにはいかなかったのです。分かってください」
「くそ、認めん、認めんぞ!」
私は槍を杖代わりにして立ち上がり、奴等に正論を突きつける。
「議会とは議員の多数決で決めるものだ。どうであれ、貴様らの敗けは揺るがない。それ以上ごちゃごちゃ言って反対するなら、こちらも法によって縛るぞ」
自身の不利を悟ったのか、政党員は忌々しげに口を閉じる。
黙ってくれたことに安堵しながら、私は議長を見上げる。
「政府にとって重要な予算を減らすとき、議院は予算を決議する前に政府と会議を開き、同意を求める。これが衆議院の議決ということでよろしいか? 議長」
議長はうなずき、後を受けるように言葉を紡いだ。
「衆議院議長として今回の議決を認めよう。つきましては政府との同意を求めるための会議時期・参加者を決める選挙に入りたいと思う」
そして議題は次の話題へと移っていった。
(もう、大丈夫だろう)
私は憎々しげに睨む政党員を無視し、松方さんを肩に背負って議場を後にした。
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