第11話

 弟が使っていたドライヤーをお風呂のドア前に置いておいてくれる。冷たい空気がすぐに入ってきちゃうので、小さくドアを開けてとる。お風呂場兼洗面所は湯気で鏡が曇りすぎ。鏡にドライヤーをあてながら、髪を乾かす。制服を着て、居間に行くと、母と弟がご飯を食べていた。

時計は、7時30分。

 「いただきまーす。」

あったかい味噌汁のひと口が体にしみわたるー。

 「あー美味しいー。」

母が、

 「やったー。」

と、喜んだ。なんか、心がすんとなり、私は母に、

 「中央学院通ってみようかな。」

と、話した。

 「通うの?」

と、母。

 「うん。優しそうな塾長だったから。会うかなと。」

 弟が、テレビから私の方へ視線を流した。

母が、

 「わかった。帰ってきてから、いろいろと教えてね。」

 「うん。」

すんなり言えた。あっ、学校行ったら、ひさちゃんに言わなきゃだ。弟が、

 「通うの?」

と、聞いてきた。

 「そろそろ、決めなきゃだよね。」

と、卵焼きに箸をのばした。

 「あま〜い。これ、甘い卵焼きだぁ。好きだぁ。この味。」

 「俺がリクエストした。」

と、つかさず弟が。私は、

 「ありがとうございます。」

と、弟に頭を下げた。弟はニヤニヤしている。母がそれを見て、ハハハと笑った。

音が鳴るやかんが、ピーっとなった。母が、すぐに立って、ストーブから下ろして、ポットに入れた。残りを急須に注いだ。一瞬お茶の香りが、ぶわっと部屋にひろがる。少し濃い匂いがする。湯呑みに注いで、受け取るといつも茶柱を探してしまう私がいる。今日はたっていなかった。ガクリ。母も弟も言わないところをみると、茶柱はたっていなかったとみえる。なかなか会えないところをみると、

やっぱり縁起の良いものなのかな。まだ、熱いお茶をすする。テレビを見ると、天気予報が、そろそろ学校へ行く時間だ。立ち上がりながら、

 「ご馳走様ー。」

と、台所のシンクの中に食器を置いた。母が、振り向いて、

 「はーい。ありがとう。」

洗面所に行って、歯磨きをして髪はねのチェック。戻ってきて居間に掛けてあるコートを着てマフラーをかけて鞄を持って、母と弟に、

 「行ってきまーす。」

と、2人が私を見て、

 「行ってらっしゃーい。」

と、言う。玄関で長靴を履いていると、居間のドアを開けて母が、もう一度、

 「行ってらっしゃーい。」

と、言ってくれる。私が、振り向いて、

 「はーい。」

と、バイバイの手を振る。母が、

 「塾の話は、夜に話そう。」

と、言ったので、私は、

 「うん。よろしくー。」

と、また、バイバイの手を振りながら言って、玄関を出た。雪の反射のまぶしい朝に目を細めながら、寒さに赤くなっていく鼻を感じた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る