第3話
体験授業が終わった。あの子達、くるかなーと思ったけど、そそくさと教室を出てきてしまった。顔も見ず、声もかけず…いっいいよね。だって、通わないからね。フンッ、何故、私は不機嫌に?まっすぐ、母のいる事務室にむかった。ノックをして、
「失礼します。」
背を向けて座っていた母が振り向いた。前にいるのは偉い人なのかな、私を母の隣に座るよう手で誘導した。
「はじめまして。こんにちは。室長の鈴木です。」
きちんとした挨拶に戸惑う私。緊張と声を出していなかったからか、言葉がきちんと良い声量で出てこない。
「…こっ…こんにちは。」
頑張って言った。母は、あれ?という顔をして私を見た。私も、あれ、こんなはずでは、という顔をして母を見た。室長の鈴木さんが、
「行きたい高校は決まっていますか?」
と、やさしそうな顔で聞いてきた。まだ、決まっていない。どうしようかな。母の顔をもう一度見て、次に室長の顔を見て、
「まだ、決まっていません。」
と言った。室長の鈴木さんは、
「そうなんですね。これから、楽しみですね。」
と、また、やさしそうな顔で話てくれた。楽しみ?楽しみ?私は、驚いた。今まで、体験した塾の先生達には、遅い、としか言われなかったから。受験は大変、辛い、みんなライバルそしてライバルを蹴落として…なのでは。頭の中に、それらの言葉が、ぐるぐるしている。ここは、違うの?母が、
「今日は、お世話になりました。」
私も少し遅れて軽くお辞儀をした。えっ、これで終わり?早く帰りたいけれども、授業を受けてどうだったとか、成績のこととか、聞かないの?聞かれないの?よかった?
「いいえ、こちらこそ。」
また、やさしい顔で。鈴木室長。ドアを開けて再び母と軽くお辞儀をして閉めた。授業が始まっているのか、塾全体が静まりかえっている。拍子抜けしている私に、母が、
「建物、きれいだね。」
と、言った。見回すと、今まで体験したなかで1番きれいかも、たしかに、と思った。
「うん。」
壁に貼られているポスターには、大学受験の文字が。だから、4階建てなんだ。大きいなと思った。1階には、中学生の教室と事務室兼職員室で、2階から4階はたぶん高校生の教室ぽい。全然実感はわかないが、高校受験の後は大学受験があるのか…まったく、頭が追いついていかない。そんな自分が想像できない。
家から遠い塾体験の緊張でか、まだ思考がぐるぐる、なんか疲れた。疲れているのは体力ではなくて、いつもは使わない頭の違う回路を使ったから、だよね。たぶん。体力はありあまっている。これから、走り込みだと言われたら、できる。本当かな。ちょっとニヤッとして、あさっての部活、楽しみだなと思った。とりあえず、やっぱり疲れたので、明言はさけて、寝て、明日の日曜日、1日ゆっくり考えよう。携帯が光る。開くと、塾話であっちのこっちので盛り上がっている。私は、〝なんか疲れたから、寝る〟と書いた。何人かからの〝さっちん、おやすみー〟を見て〝おやすみー〟を返して携帯を閉じた。みんな、塾どう決めたのかな。お布団のうえでゴロゴロしている、私の頭にうかんだ。うーん。
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