第2話

 お友達からの塾の誘いに、ホイホイついて行く私を横目に、母が

 「この塾、体験行ってみない?土曜日なんだけど」

と、塾のパンフレットを見せてくれた。

 「…いっいいよ、中央学院…駅前?」

 「そうなの、1度だけでも行ってみない?」

中央学院、周りでは聞いたことないな、でも、何人か通っているのかな。駅前って、自転車で30分はかかるよ、遠くない?でも、そろそろ塾を決めなくてはならないのは本当。嫌だったら断ればいいし、まぁ、行ってみますか。母は、私のうなずきを確認すると、すぐに塾へ電話をしていた。

 この前、誘ってくれたひさちゃんは、次から次へと声をかけて紹介QUOカードをゲットしている。勉強とは違うやる気を感じる。ある日ひさちゃんがふらっと教室にきて、

 「塾の先生が、あの子どうした?決まってなかったら、連れておいでーって言ってるけど。」

 「本当?忘れられていなかったんだ。実は週末に一件行くから、それからでもいい?」

 「大丈夫だよー。先生に言っとく。」

同じ塾同士の輪ができ始めて、1人後からポツンと見てると、少し寂しい。携帯もだんだんとその話が出てくる。私は、へーとかそうなんだとか、相槌ばかりになってきた。あのお祭りのような楽しい夜は、永遠とこないのではないかと思ってしまう。でも、どこかでいつか混じっている私がいるような気もする。

そんな心持ちのまま、土曜日がきた。

「さちー。用意できた?」

私の名前は幸子で、家族はさちーと呼ぶ。

学校では、さっちん。入学して同じ部活動に入部した1年生組7人で呼び名をどうするか

最後に、ん、がつくようにしようと、盛り上がり笑いながら呼び名を考えた。それから、周りに波及していった。家族は、呼び名のさっちんを、微笑んで聞いているけれど、でも目は絶対笑っていると、私は思っている。

 中央学院には、車で行った。私は、50分の英語の体験のみで、その間、母は別室で説明を受ける事になっていた。案内された教室は、30人くらいいるのか、席は余裕があって

広かった。なんとなく空いてそうな後の席に座った。あっちこっちで小さなグループがあったり、1人で座っている人もいた。ここ通ったら、1人なのかな…。ちらちらこっちを見て、ヒソヒソしている子がいたりして、なんかドキドキ、まぁ、50分だけ体験よ、先生がきて授業を聞いて帰るだけよ、まぁ、きれいだけど、ここは遠いしないでしょ、バックから筆箱やノートをごそごそと取り出した。

 「どこ中?」

…誰?…

 「美濃中から。」

聞いてきた子は、斜め後にいるお友達に

 「美濃中だって〜。」

と、振り返りながら声をかけている。美濃中だって〜がそのグループに輪唱しているようだった。呼んでいないのに、グループになっていた子達が私のところに来た。4人だけど。はじめましてなのに、体験なのに、こないでー。

 「美濃中っていたっけ?」

4人は顔を見合わせながら、

 「聞かないねぇ。」

 「ねぇ。」

ドキドキ。

 「席着いてー。」

いいところに?授業がはじまってくれた。

 

 



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