AOI
三角屋カヨ
第1話
はじめて、葵を見たのは、中学3年生になる、春休みだった。
「さっちん、ヨーク前6時ねー。」
ひさちゃんが、昇降口で声をかけてきた。
そう、今日は、帰ってから塾の体験だ。
「おっけー。帰ったら連絡ちょうだーい。」
「おっけー。ばーい。後でねー。」
今は、3月なので市のチャイムの4時半に合わせて部活が終わり帰宅となる。ここは、山肌を沿うように開かれた通称堤団地と呼ばれていて、頂上に通っている中学校がある。行きはずっとのぼるけれど、帰りは反対にずっと下りなのでらく。冬は学校の裏山で、スキーの授業があるので、帰りにスキーをはいて帰るなといわれるほど。ほぼ楕円形の団地を一周する市バスの走る広い道路があって、中央には団地を十字にはしっている道があって、真ん中に、ヨークというスーパーがある。待ち合わせの場所である。近所では、はじめてのおつかいにお世話にならない人はいないとか。ヨークを角に、ドラッグストア、本屋、花屋、クリーニング屋、たこ焼き屋、その前には、夏はお祭りが開かれたり、憩いの広場がある。お店を横目に、帰路につく、シャワーを浴びたいし、ご飯食べたいし、髪もちゃんと乾かしたいし。ひさちゃんの話も聞いておきたいし。何着て行こうかな、悩む〜。帰り道は、部活の疲れもどこ吹く風か、なぜか足取りが早くなる。いつも、一緒に帰るちえちゃんの話もどこ吹く風だった。
お夕飯を食べながら、母が
「塾、終わるの何時?」
「英語と数学と話聞いてくるから9時頃かな?」
「その頃、迎えに行けばいい?」
いやいや、合法的に夜友達と外で会えるのは、塾とお祭り、くらいなんだから。
「角の、あさみちゃんも入っているみたいだから、塾の事聞きながら、一緒に歩いて帰ってくるよ。」
「そう、わかった。夜遅いから何かあったら、すぐ電話ちょうだいね。」
「うん。行ってきまーす。」
待ち合わせのヨークへ行く。昼間学校であっているのに、なんでかニヤニヤしてしまう。
ひさちゃんが、ヨークから出てきて、食べる?って、グミの口を開けて、ありがとうって言いながら一粒つまんでとった。美味しい。甘くて食感が似ている葡萄。塾は、ヨークから歩いて10分くらい。英語がわかりやすいとか、男子が学校よりにぎやかだとか、ひさちゃんの話を聞きながら歩いた。緊張する。
1階の事務室で受付をすませて、2階の教室に入った。あかりが少し眩しい。座る席を見渡したら、見たことがある顔顔顔。30人くらいいるな。少し緊張がとけた。
「さっちんだ。」
「さっちん、入ったの?」
と、囲まれて、少し恥ずかしくて。
「体験だよ。」
と、ひさちゃんが言った。休み時間には、みんなとたくさん話せて楽しかった。英語もわかりやすかった。事務室でパンフレットを受け取り、特典が紹介した人ももらえることを知った。帰りはお祭りの夜みたいに、ガヤガヤぞろぞろと賑やかだった。母にパンフレットを渡しながら、
「どうだった?」
と、聞かれた。
「英語がわかりやすかったよ。」
「あら、よかったわね。」
と、テーブルにパンフレットを広げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます