25.蛭の隠者
トーリは、撤退していく〖聖位要塞〗を、鋭利な視線で、しばらく見つめると、少し破れたフードを被り直す。
すると上空を、黒く覆いつくしていた、大量の
トーリは、落ちて来て肩にへばりつく
すると上空に居た蠅が降りて来て、トーリの頭に止まる。
フードが破れたことで、顔の半分に光が当たり、露わになっているトーリの片目が、頭の上の蠅に向く。
「ハエちゃんには、〈
そう言いながら、リュックを背負い直すと、蟷螂を引き連れ、茂みまで歩いていく。
地面を覆いつくす蛭は、トーリの歩みを邪魔しないように避けてていく。しかしトーリは、逃げ遅れた蛭を一匹、踏んずけてしまう。トーリは、脚に、のたうつような動きで絡みつく蛭を、「あぁ、ごめんよ」と呟くように言うと、ゴツい靴の爪先で、軽く蹴り退かす。
そして蛭を撫でていた手を止めると、茂みをまさぐり
蛹の回収を終えると、トーリは、風変りな衣装をまとった民族の一団に歩み寄っていく。
民族の一団は、地面を埋め尽くし、蠢く蛭を、警戒するようにうかがっている。
「やぁ、君たち。大変だったねぇ」
そんな一団に、トーリは片手をあげながら、気安く声をかける。
一団は、トーリの肩に絡みつく蛭を見ると、次にトーリの後ろの、巨大な蟷螂を、警戒した顔で見る。
「まさか彼らに目を付けられるなんて、不幸だった、てわけではない、かぁ。彼ら〖聖位要塞〗は、この国の総合的な守護を担う大規模ギルドでね。侵入者に対処する役割も兼ねていてね」
そう、ひとりでに小さく頷きながら、言う。そして端が破けたフードの奥から、片方だけ覗く、鋭い目で、民族の一団を見る。
「知ってるかもだけど、この国は、外国との関係を徹底的に断てる。それができるのも、この国が誇る最強の戦闘集団である、彼らあってのことであり。防御特化であることを顧みたとしても、そんな彼らをしのぎ切るとは。大したものだよ」
少し呆れたような声色で、トーリは、そう言う。
民族の一団は、トーリを警戒しつつ、その中の背が高い、痩せた男がトーリを観察するように伺いながら、前に出てくる。
トーリも、そんな痩せた男を、肩にへばりつく蛭を抱き寄せながら、見つめる。
痩せた男は、険しい表情で、トーリを見つめ、二人は、少し見つめ合う。
やがて痩せた男は、険しく、重々しい動きで、口を開く。
「そんなことより、アンタは? これは、アンタがやったのか?」
痩せ、筋が浮き上がり、それが逆に、奇妙な硬質さを醸し出す顔立ちの、そのゴツさのある唇から、そんな警戒心のにじんだ、疑問の声が放たれる。
そんな痩せた男に、トーリは、陰りのある湿った微笑みを浮かべる。
「あぁ、大丈夫大丈夫。この子たちには、大人しくしてるように言ってあるから」
そう言うと、トーリは自らの脚に絡みついてくる蛭を、爪先で、小突くように押し退ける。
「なにが、目的だ?」
「ん? あぁ、まぁ、君たちも〔ブレイン〕とかから追われたりして、大変な思いをしてきたんだろうし? なのに、こう、理不尽な目にあい続けるのも、可哀そうじゃない。そんなの、善意の第三者としては、見過ごせないよねぇ」
怪訝そうに問いかける痩せた男に、トーリは、小首を傾げながら、そう答える。
そんなトーリを、瘦せた男は、険しい表情で、見つめる。そして少しすると、急に仲間の一団を振り向く。
「こんなことをしてる場合じゃないっ。みんな、さっきの爆発、聞いたな? 早く確認にいかなければ」
そんな瘦せた男の言葉に、他の部族の一団も、険しい表情となり、神妙に頷いたりしている。
部族たちの様子に、トーリは、抱いている蛭を、地面に放り、蠅が芋虫の背中に<収納>されるのを横目に「あら? どうかしたの?」と尋ねる。
痩せた男は、そんなトーリに、一瞬、迷惑そうな表情を浮かべる。
「仲間が、〔ブレイン〕どもにさらわれてな。仲間が囚われてると目星をつけていた屋敷の方向で、ついさっき大爆発が起きた」
「なるほど。だから今から向かう、と?」
「あぁ、だから、もういいか?」
痩せた男が、そう最後に言うと、トーリに背を向け、仲間と向き合う。
「悪いことは言わない。やめておいた方がいいよ」
トーリは、痩せた男の背に、そう声をかける。
痩せた男は、動きを止め、微かにトーリを振り向く。
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