23.風変りな民族

「いやだねぇ、ギンガったら。いい男だけど。若いからか、ずいぶんと血の気が多い。困ったもんだ」


 トーリは、仲間たちに指示を出すギンガの背中を見つめ、すぐ逸らすと、その体から黒い粒子を溢れさせる。


「あ、まぁ、私とそう歳は変わらなかったんだっけ?」


 黒い粒子が収束することで、形作られた、馬よりも一回り大きい蚰蜒ゲジゲジを見つめながら、一人呟く。

 そんな蚰蜒は、トーリに向けて頭を下げるかのように、身を低くする。


 トーリは、蚰蜒の、その背に飛び乗る。


「それより、この国から出る抜け道、思いつくかねぇ」


 そう言うと、トーリは蚰蜒の背の外骨格の連なりを撫でる。


「まぁ、とりあえず風変りな一族、っていうのが、どんなか、見に行ってみるか」


 続けて、トーリは蚰蜒に話しかけるかのように言う。

 そして蚰蜒はトーリを背に乗せ、さわがしさのある脚の、細やかに糸引くような、速い動きで駆けていく。



――――――――


 蚰蜒の背に乗り、しばらくスマートフォンを取り出し、いじり、蚰蜒に指示を出しながら、トーリは廃れた建物の続き、植物が茂り始めた、荒野を進む。。


 やがて少しすると、トーリが進む方角の先から、喧噪けんそうが聞こえて来る。

 トーリは「ここだね」と一言呟くと、喧噪から少し離れた所で、蚰蜒から降りると、崩壊した建物の一部と背の高い草でできた物陰に、隠れ、喧噪の聞こえて来る先を覗く。


 そこでは、風変りで、少し派手な衣装をまとった一団が、白い軍服を着た〖聖位要塞〗たちと熾烈しれつな攻防を繰り広げている。


 〖聖位要塞〗の構成員たちが生み出す、光の攻撃を、風変りな衣装をまとった一団は、地面の土や瓦礫がれき、植物が混ざった土砂によって、防ぐ。

 土砂を操る一団は、指先から光を放ち、その光の軌跡きせきで、瓦礫や地面、植物に、奇妙な紋様もんようを描き、きざむ。すると紋様が、更に輝き、地面や瓦礫に染み込むように、入り込んでいく。すると紋様が刻まれたモノは、ひとりでに動き始め、やがて土砂となり、その体積を増やしてく。

 そして土砂は一団を覆ったり、押し流したりして、〖聖位要塞〗による攻撃を、防ぐ。


 トーリは、いったんリュックを降ろし「ふむ」と呟くと、思案気に、唇に指先を当て、その戦いを見つめる。


「あれが、噂の民族とやらか。確かに、見慣れない能力を使ってるねぇ。しかも、なんの因果か、ちょっと〖聖位要塞〗独自の《付与》と使い方が似てるなぁ」


 そして考え込むように、その滑らかに低い顎をなでる、トーリが顔を向ける先では、〖聖位要塞〗の構成員が十字を切るような動作をすると、そこから光による攻撃が放たれる。


「それに民族側は、守ってるとは言え、子どもも参加できるのか」


 そう言い、トーリが顔を向ける先には、一団が操る、土砂に守られながらも、子どもも指先から光の軌跡で、紋様を描き、操る土砂を増やすことで、《聖位要塞》との戦闘に参加していた。


 戦闘の推移を見つめるトーリの胸元から、芋虫が這い出て来て、その背中から、一匹の、両手で抱える程の、大きさのサナギが出てくる。そしてトーリは、蛹を、茂みの中に入れ、隠す。


 すると、その瞬間、トーリの後ろから、鋭利な光が、弾丸のように、トーリめがけて飛んでくる。


 その光はトーリの肩を撃ち抜き、トーリは痛みに、驚きと苦悶が混じった表情で、すぐに立ち上がり、振り返る。

 しかしトーリが振り返った瞬間、更に、その背後に、いつの間にか移動してきていた、白い軍服の男が、トーリの背中に、取り出した紙を貼り、そして地面に押さえつける。地面に押さえつけられる際に、トーリの被ったフードが、がれ、整えられず、少し変なくせがついた長い黒髪があらわとなり、なびく。

 そして、その紙からは、光が漏れだし、その光が鎖を形作り、トーリを拘束する。


 白い軍服の男にのしかかられながら、トーリは、フードを剥がされ、露わとなった顔をあげる。


 力が抜けたように、微かに唇を開けた、呆然とした表情の、トーリの顔立ちは、せ気味で細いが、全体的に幼い柔和にゅうわさを持ち、同時に彫りが浅く、特徴があまりない。

 しかしそんな肉の盛り上がりがほぼない、淡白な顔立ちが、幼さを、もやで隠したかのような、奇妙きみょうはかなさをかもしだす。


 幼い、彫りの浅さが、儚く、曖昧あいまいな印象を与える顔立ちの中で、その一重の、滑らかに細い目が、滑らかだが、やけに鋭利なを描き、印象的に釣り上がる。


 その釣り上がった目元を、幼さの醸し出す、浅さ、ゆえの奇妙な鋭さのある涙袋が、靄がかったような控えめなテカりを浮かせ、沿うように流れる。

 涙袋の沿う、下のまぶたには、靄のように、柔く、細やかな、下睫毛したまつげが、生え、連なる。


 そんなトーリの、強い鋭利さを持ち、しかしその鋭さのあまりに、気が付かれなかった切り傷のように希薄な、奇妙な儚さを持った、トーリの目が見上げる先からは、何人かの白い軍服を着た男たちが歩いてくる。

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