19.〔尻尾付き〕戦 二『水の乙女』

 トーリが双眼鏡で覗いている先の戦場では、〖致命の熱〗の構成員たちが生み出した炎球の大爆発が、多くの〔ブレインの集団〕を巻き込み、炎が燃え盛る。

 〔ブレインの集団〕が炎に、包まれ、その血餅けっぺいに似た体に、粘着質ねんちゃくしつにまとわりつき、燃やし尽くしていく。〔ブレインの集団〕の一部は、炎で焼き尽くされる倒れ伏す。

 しかしその大半は、肉体を急速に再生させ、まとわりつく炎を表皮ごと切り離して、生き残る。


 そして何事もなかったかのように〔ブレインの集団〕は怯むことなく、炎を放った〖致命の熱〗構成員たちめがけ、駆けていく。


 すると〖致命の熱〗の構成員たちの間から、赤いケープコートを着た女顔の細身の青年、ギンガが険しい表情で歩いてくる。


 そんなギンガの傍らには、幼さのある乙女をかたどった水が、浮き上がり、まるで抱き着くように寄り添っている。

 しかしそんな乙女の目の部分は、こめかみまで、虫のような複眼が覆い、その頭にはしものような細やかな氷でできた、フカフカな、みたいな触覚が二本、長く伸びたなびく。そして腕は、鳥のようなつばさとなっており、その片翼かたよくが、まるでマントのように広がりなびき、ギンガに絡みついている。その脚はなく、替わりに細やかな鱗のような氷でできた、蛇のような尻尾が伸び、ギンガを軽く囲い、漂うようにとぐろを巻く。


 そんな水の乙女を侍らせ、先頭に出てきたギンガの、その目前に、〔ブレインの集団〕が迫る。


 するとギンガと水の乙女の周りに、水がただよい始める。

 そして水の乙女が、ギンガに回していた片翼を離し、更に少し浮き上がると、その正面に、水が収束していき、一つのかたまりとなる。その水の塊は、圧縮していき、やがて高密度の氷となる。

 そして氷は、高密度となっても、更に小さくなっていき、氷は、最後には目に見えなくなる。


 するとその瞬間、氷が浮いていた位置には、先ほど〖致命の熱〗の構成員たちが放ったのと、同じくらいの巨大な炎球が生み出される。


 その炎球に、〔ブレインの集団〕は、まるであせっているかのように、強引な動きでギンガたちに飛びかかる。

 しかしギンガたちにたどり着く前に、水の乙女が生み出した炎球が放たれ、その炎球の爆発に〔ブレインの集団〕は巻き込まれ、吹き飛ばされていく。


 そして間髪入かんぱついれず、水の乙女を中心にして、更にいくつかの水の塊ができ、それが氷となり、また巨大な炎球となる。そのいくつもの炎球によって、爆発で吹き飛ばされた〔ブレインの集団〕に、ギンガたちは無慈悲むじひ追撃ついげきする。


 大量の炎球を放ち終わると、やがてギンガの体を中心に、不自然な風が立ち昇り始める。そしてギンガから立ち昇る風が収束し、濃縮のうしゅくしていき、やがて視認できる程、分厚い風の体を持った細長い魚が現れる。

 風の魚のエラのある、ところら辺には、大きな蝶のような翅が靡く。

 そんな風の魚から、不自然な風が吹きすさび、炎球の爆発で吹き飛んでいった〔ブレインの集団〕を撫でる。


 するとその瞬間、〔ブレインの集団〕が体を再生させることで、消炎しかけていた炎が、再度吹き返し〔ブレインの集団〕の再生中の体を燃やし尽くしていく。〔ブレインの集団〕は吹き返し纏わりつく炎を、なんとか消そうともがくが、しかし風が吹きすさぶ限り、一向に消炎できる気配がない。


 炎に焼かれ、次第に数が減っていく〔ブレインの集団〕を、双眼鏡越しに、トーリは口元を引きつらせながら、見つめる。


「いやはや、なんとも圧倒的だねぇ。これは、そろそろ尻尾付きも、動くかな?」


 そう言うと、トーリは双眼鏡を、未だに不穏ふおんな沈黙を続ける〔三匹の尻尾付き〕に向ける。

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