20.〔尻尾付き〕戦 三『豪脚』
〔三匹の尻尾付き〕の内の、膝をそろえ、かがみ込んでいる〔中心の尻尾付き〕が、そのまま斜め後ろに控える、〔二匹の尻尾付き〕の片方に顔を向ける。
〔中心の尻尾付き〕に見つめられた方の〔尻尾付き〕は、黙って前に出て、その脚に力を
脚に籠った力に、屋敷の屋根が、微かに崩れる。
そして、その〔尻尾付き〕の、キツく締まり上がり、その筋肉同士の狭間の、溝の彫りが、深まった脚で屋根から飛び降りる。
屋根から飛び降りた空中で、その脚の関節が、まるで筋肉の締りにより、ズレて、折れるかのように変形を始める。
〔尻尾付き〕の、爪先は広くなっていき、やがて爪先だけで、体重を支えることができる形状となる。そして
すると膝の関節の接合部位もまた、少し前に出て、反った脛と相まって、微かに重心が前に移り、背筋の反り方が変わる。
最終的に〔尻尾付き〕の脚は、まるでカンガルーの脚に似た形状となる。
カンガルーのような形状となった〔尻尾付き〕の脚は、カエルのような姿勢で着地する。そして更に、脚に力を籠める。
すると〔尻尾付き〕の脚を中心に、地面が
その動きは、遠くで〔尻尾付き〕をうかがっているトーリの双眼鏡ですら、追いきれない。
赤黒い
その勢いに乗って〔尻尾付き〕は、地に深く屈み込む。折りたたまれた脚の合間に、その身を、深く沈み込ませ、静止する。そのすさまじい勢いに、まるで関節がズレていったかのように〔尻尾付き〕の脚は、更に変形していく。
しかし異様なことに〔尻尾付き〕のすさまじい勢いの着地を受けてもなお、その地面は、一切、傷ついた様子はない。
すると、すぐに〔尻尾付き〕の脚の、踵であった部位と膝の関節の角度が、更に深くなり、伸び、まるでバッタのような脚に、変形しきる。
そして、すぐさま姿勢を少し前に倒すと、着地した勢いが、衰えない内に、一気に脚を開き、跳躍し、宙で前転する。しかしその跳躍は、着地の勢いを利用し、かつその勢いを変形で溜め込んだ脚力にしては、低い。
だがその代わりに、その赤黒い細く長い尻尾が、今までにないほど、目にも止まらぬ速さで、ギンガに襲い掛かる。
するとギンガの後ろにいる、水の乙女が、ギンガに抱き着く。
その瞬間、ギンガの周りを、氷が、囲うように覆う。同時にギンガの手の甲にある、炎を
しかし炎は、氷を溶かすことなく、むしろ更に硬く凍り付き、氷の体積も増やしていく。
ギンガを囲う氷と〔尻尾付き〕の尻尾が衝突し、拮抗する。しかし青い炎が次第に弱まっていくと、やがて氷も、ひび割れていく。
そこにギンガを取り巻き宙を浮く、風の魚が、泳ぐようにその身をひるがえす。すると不自然な風が吹き、氷を取り巻く青い炎を撫でる。
すると弱まり始めていた青い炎が、吹き返す。
そしてギンガを囲う氷の壁は、青い炎により、更に硬くなり、体積を増やす。
やがてギンガが、攻撃を防ぎきると〔尻尾付き〕は自らの尻尾を引き戻し、少し距離を取る。
そんな〔尻尾付き〕に向けて、ギンガは、片手を伸ばす。軽く見えない何かを握るような、力ない開き方をして、細く、しかし滑らかな締りを持った指先を伸ばす。
その指先に、水の乙女が顔を近づけ、その小さいが、少し大人っぽい厚みのある唇を、微かに当てる。するとギンガの指の指す先に、水が収束し、氷となり、圧縮していく。水の乙女が顔を離すと、氷が圧縮しながら〔尻尾付き〕に飛んでいく。
〔尻尾付き〕の目の前で、氷が、見えなくなるほどに圧縮しきると、〔尻尾付き〕は、すぐさま自らの体を、赤黒い尻尾で包み込む。
するとその瞬間、すさまじい衝撃が、尻尾で体を包み込んだ〔尻尾付き〕を襲う。その赤黒い尻尾はボロボロとなり、尻尾でも防ぎきれなかったダメージによって、〔尻尾付き〕はひどく傷つき、体に絡みつく尻尾を解くと、崩れるように座り込むと、地面に手を付き体を支える。〔尻尾付き〕の体は、なかなか修復しないが、尻尾はすぐさま、元通りに治る。
脚を、へたりこむようにして投げ出す〔尻尾付き〕は、荒い息を吐き、涎を垂らしながら、口しかない顔でギンガを見る。
ギンガは、
〔尻尾付き〕は、体を不完全だが再生させ、何とか避けようとするが、間に合わない。やがてギンガが伸ばす、いっそう巨大な氷柱が〔尻尾付き〕を貫こうと、目前に迫る。
その瞬間、氷柱が、奇妙な形状の濃い赤い皮膚をした脚の踵落としの、食い込みにより、大きく、ひび割れ、砕け、止まる。
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