12.追及

「ところで、聞きたいのだがね。なぜ君は、幽閉されていた外国人たちを、わざわざ殺して回ったのかね?」


 険しい表情で、レイスはトーリを見つめて、問いかける。


「この拠点を潰すだけなら、わざわざ殺して回る必要が、いったいどこにあるのかね?」


 そしてレイスは立て続けに問いかける。


 トーリは、その問いかけに、絡みつくような動きで、微かに首を傾げながら、レイスの少しななめ上の方を見上げるように、顔を向ける。


「ん? あぁ、君も知ってる思うけど、〖トグロ〗ってのは、海外から来る密入国者を排除することを生業としてる組織だよね。で、こいつらは、その立場を利用して、違法に外国人を奴隷にして、もうけてるわけだけど」


 そう言うと、トーリはレイスに顔を向け直す。


「まぁ、それでも君たち、表の人たちとしては、こいつらを放置しておいた方が、密入国者の見逃しを少なくできる、ってのがあるんだろうけどねぇ。密入国者への対処の負担が分散できる、と」


 そしてレイスから、血だまりの中に、転がっている首に顔の方向を移しながら言う。


「それはそれとして、密入国者たちはさぁ、たぶんだけど、大抵は〔ブレイン〕から逃げてきた、ってわけじゃん? だったらこの国の人間として、生かしておくわけにはいかないよね」


 またレイスに顔を向け直すと、トーリはその唇を釣り上げ、滑らかな粘り気を持った微笑みを浮かべる。

 そんなトーリを、レイスは眉間に深いしわの寄った、険しい表情のまま、見つめる。


「確かに、国内に外国人が居るということは、密入国者の増長に繋がりかねないが」

「え? なに言ってんの? そんなわけないじゃん。だって今、国同士は連携れんけいが取れてないんだよ? こんな状況で、他国の密入国者が増えた、なんてくだらない情報、行くわけないよ」


 レイスの言葉に、トーリは不思議そうな、つつくかのような絡みつきのある声で、言い返す。

 するとレイスは黙り込む。


 トーリも、微かに小首を傾げて、レイスを伺う。


「あれ、もしかして、ほんとに気づいてないの?」


 しばらくすると、トーリは、華奢きゃしゃな、幼い細さを持った手で、口を覆う。

 そんなトーリに、レイスは細やかなうろこのように浮く目元の小皺の掘りを、ひきつりを持った動きで深める。


「どういうことかね?」


 レイスの返事に、トーリは粘り気のあるニヤつきを浮かべる。


 するとトーリの胸元からい出てきていた芋虫の背中が開く。そして芋虫の背中の割れ目に、馬陸ヤスデと蜂、団子虫が入っていく。


「さぁ、なんのことだったでしょう?」


 そう言う、ニヤつくトーリは、芋虫を胸元に収めると、その体から、黒い粒子が溢れ出す。


「いやぁ、私のこと信じてない奴に話したとしてねぇ。なんの旨味もないわけだしねぇ」


 トーリが言い終わると同時に、収束した黒い粒子が、蚰蜒ゲジゲジとなる。


「待ちたまえ」


 レイスはそう言うと、足元の土の蛙を見る。蛙は地面の中に潜っていく。

 そして呼び出された蚰蜒は、その背にトーリを乗せる。


「私が〖仲介屋〗に、ここの場所、聞いた時、間髪入れずに情報、送ってきてくれてさ。まるで私が聞いてくることが分かってたみたいに。ほんと〖仲介屋〗って、怖いね。もう表側の組織にも、構成員が入り込んでるのかな?」


 そしてトーリはニヤついた笑みを浮かべながら、レイスを見つめる。

 そんなトーリに、レイスは黙り込み、掴みどころのない、気だるげな垂れ目を向ける。


「じゃ、頑張ってね」


 トーリはレイスに、そう一言告げると、通路の奥を進んでいき、去っていく。

 去っていくトーリを乗せた蚰蜒を、レイスは黙ったまま見つめ、見送る。



―――――――――


 蚰蜒に乗り、通路の出口までトーリはたどりつく。通路は、街から近い、人目につきづらい林の中に続いていた。


「ここまで続いてたわけか。じゃ、ゲジちゃん、街に帰ろっか」


 トーリは引き続き、蚰蜒に乗り、街を目指す。そしてポケットからスマホを取り出し、いじり出す。やがてスマホをフードの中に入れ、耳に当てる。


「あ、受付嬢? ちょっといい?」

『なに?』

「ちょっと〖トグロ〗が戦力を派遣してる組織、ピックアップして教えてくれない?」

『分かったわ』


 トーリの注文に、受付嬢は言葉少なく、そう答える。


「そうそう、君たちって金融業してたんだね。レイスに聞いてびっくりしたよ」

『用事が済んだなら、もう切るわよ』


 冷たい受付嬢の言葉に、色素の薄い唇を、不満そうにすぼめる。


「冷たいなぁ。そうカッカしなくたっていいじゃん」


 そう答えると、受付嬢との電話が切れる。スマホをフードから抜き取ると、その画面を眺める。


「あぁ、切られた」


 そう呟くと、トーリはスマホの画面をいじり出す。やがてその画面は、受付嬢か送られてきた、いくつかの印が付いた地図情報を映し出す。

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