9.情報屋の脅威
深い闇からこし出したかのような純度の高い粘性を持った、絡み付いてきそうな微笑みを浮かべ、トーリは黙り込み、リーダーの男を見つめている。
身を
「くっ、クソっ。なっ、なんで、俺らのことがっ、ばっ、バレてんだよっ」
リーダーの男は、震えて、ひどいく弱々しい声で、小さく吐き捨てる。
そんなリーダーの男の様子に、トーリは両手で口を押えて、肩を、液体特有の弾みのような、粘着質さで震わせる。
「あはは、なんてザマだよ! 仮にも、末端とは言え、武闘派組織を取りまとめてた奴のする顔じゃないでしょ。さすがに、それはさぁ」
笑いながらそう言うと、しゃがみ込み込んでいたトーリは、軽く尻もちをつき、
しばらくトーリは、自らの口を、強く押えて、湿り気のようなにじみ方をした、
少し頭上を飛んでいた蜂が、トーリの背負うリュックの上に降りる。
笑い続けるトーリを、リーダーの男は、乾き始めたが、閉じることのない目を見開き、その様子を伺う。
「ははっ、それで、なんだっけ? えっと、確か、私を襲ってきたのが、君たちだって、なんでこんなにも早く分かったのか、だね」
トーリは胡坐をかいた状態で、微かに姿勢を低くし、リーダーの男の顔を覗き込むように、見上げる。
そこにトーリの後を追いかけていた団子虫が、組んだ胡坐の中に潜り込んで来る。
「それはね、〖仲介屋〗だよ。彼らが、私に君たちの事務所の場所を、教えてくれたんだ」
「はっ? なっ、なんであいつらがっ」
トーリの答えに、リーダーの男は戸惑ったように、そう返す。
トーリは姿勢を正し、腕を微かに持ち上げて、体に細やかな影のように巻き付いている
「どうしてこうなったか、もともとの原因としては、この国における大規模ギルド〖致命の熱〗の炎をくすねたことに尽きるかな」
腕に巻き付き、影のような湿り気を持った、揺れのある動きで鎌首をもたげる馬陸と、トーリは見つめ合う。
「《仲介屋》は、表の組織の忠犬だからねぇ。何かしら問題が起きたら、彼らは必ず、表の組織の味方になる」
そして馬陸は、トーリの被るフードの中に入っていく。トーリは、そんな馬陸を好きにさせる。
「この国では、表の組織には、絶対に逆らえない。そんな表の組織に、どこまでも忠実だからこそ、〖仲介屋〗は、この国の裏側で、強い権力を得た。
今や、裏の組織は、必ず〖仲介屋〗と契約しなければならないし、組織内に侵入され、情報を流されたとしても、見逃さなければならない。この私でさえも、例外ではない。
まぁ、そういうことで、彼らは〖致命の熱〗の問題解決のために、君たちの情報を、私に流したわけだ。ほんと恐ろしい情報屋だよねぇ」
馬陸はフードの中の、トーリの首を通ると、反対側のフードの隙間から顔を出す。そんな馬陸はリーダーの男に近づいていき、かなり至近距離まで近づくと、そのまま、まとわりつく影のような、粘性のある静止をする。
リーダーの男は馬陸から顔を逸らす。
「なっ、なに言ってんだよっ。〖仲介屋〗だって、いっ、今まで俺たちに、協力してただろうがっ。〖致命の熱〗だって、俺らやってること、さっ、散々っ、見逃してたじゃねぇかっ。今更なんだってんだよっ」
「だから、言ってるじゃない。炎をくすねたのがまずかったって」
リーダーの男の言葉に、トーリは冷たく返す。
「確かに、思いつきもよかったし、なんならけっこう仕事も、上手くやってたよね。でも、単純に考えてみてさぁ、表の組織の奴らが、君たちの仕事、歓迎するわけないじゃん」
しばらくリーダーの男を、近くで見つめていた馬陸は、急に
「君らが見逃されてたのは、ただ単に、〔ブレイン〕の対処で、表の組織には、時間がないだけなんだよ。だから、今までは明確な証拠がなければ、君たちくらいの犯罪なら、無視せざるを得なかった」
そう言いながら、トーリは片方の肘を、胡坐を組んだ太ももに突き立て、その顔を支える。そしてその膝の間に収まる団子虫の外骨格を、もう片方の手で撫でる。
「でも、君たちは表の組織が、〖致命の熱〗が、無視できないことをしでかした。
国を守るはずの、彼らの力を利用した犯罪。
そんなの、純粋な〖致命の熱〗が、それどころか、この国の、全ての大規模なギルド〖聖位要塞〗も〖展開する手〗も、〖軌跡の尾〗は、ちょっと分かんないけど、認めるわけないでしょ?」
トーリは〖軌跡の尾〗の部分で、口元を微妙に引きつらせつつも、そう言う。
「表の大規模組織が一番嫌なことをして、不興を買って、その空気を察した〖仲介屋〗も、まとめて敵に回したわけ。少し感覚が麻痺しちゃったのかな? やることなすこと、ちょっと詰めが甘いよ?」
そんなトーリの言葉に、リーダーの男は黙り込む。
しばらくトーリも、リーダーの男を見つめ、黙り込む。
二人の間には、蠢くような沈黙が立ち込める。
やがてトーリの滑らかな薄い厚みを持った唇が、急に開く。
「時に、君さぁ、助かりたくはない?」
巻き付き、締り、染み込んでいくかのような、トーリの湿り気のある声が、そう問いかける。
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