6.運び屋の真骨頂
やがて最奥にある扉の前にたどり着く。その扉の奥からは、ここの檻とは明らかに違う、異臭が微かに
そんな扉のドアに手をかけながらトーリは〈分身〉の蜂が、最後に残った、やせ細り、身動きを一切取らない外国人の少年を、潰すかの勢いで刺し殺すのを見届ける。そして、そのドアを回して、扉を開く。
扉の奥は、薄暗く、微かに入る光により、近くに今まで通りの檻があることが分かる。しかし今までとは違い、そこからは濃い
酷い臭いにトーリは「うげぇ」という、潰れたかのような湿り気のある声で呟き、長く色の薄い舌を出す。
そのまま気怠さのにじむ消極的な鈍い動きで、リュックを降ろすと、懐中電灯を取り出す。そして懐中電灯を照らしながら、胸元から這い出てきた芋虫の背中の割れ目に、
最後にトーリはリュックを背負い直す。
そして<分身>の蜂を引き連れながら、扉の奥を懐中電灯で照らし出す。
そこには今までと同じ造りの檻が、更に続いている。
トーリは、中に入って、一番近い檻に近づいていき、その中を照らし出す
するとそこには女性であろう、裸の死体が横たわっている。女性は、肩幅がそれなりにあり、ガタイは良いが、骨がひどく浮きあがっている。その皮膚は、腐食から茶色がかっており、皮が骨にこびりついているかのように乾燥していた。
女性が横たわる、半開きの檻の扉を押し開いて、檻の中に入る。
そして女性を、そのゴツイ靴で強く蹴り上げるように退かして、トーリは床を照らし出す。
そこには女性がどいた床には、
その固まった腐敗汁は、ところどころ剥がれている。また腐敗汁が
一本線を照らしながらトーリは「ふぅん」という、曖昧な、湿り気のある唸り声を上げる。
すると分身の蜂が、希薄を
分身の蜂によって
通路の奥の闇を、懐中電灯で照らして、覗き込むように見下ろしながら、幼さが
するとトーリのフードの奥から線の細く、長い、しかし整えてないがゆえの、変な
少し通路の奥を見つめると、トーリは、すぐにその通路に背を向け、別の近くにある檻に歩いていく。
そしてトーリは、近くにあった、比較的新しい、幼さのある少女の死体が放置してある檻に入っていく。
少女の体は、腐敗感のある青みが浮き、その腹は微かに膨らんでいる。その青い目は見開き、乾ききっている。顔は、死ぬ寸前の苦しみが刻み込まれたかのように、獣じみた
口が、大きく開いており、噛み合わせの、段差が合っていない、ガタガタな歯並びが覗き、長く伸び黒ずんだ舌が口の端から垂れている。
「歯、抜きにしたら、けっこうな美少女なはずなのに。あはは、すっげぇ、汚きたねぇ顔。ブッサイクぅ。なんか残念だなぁ。生前も残念そう」
そしてトーリは、そんな少女ごと、床を、<分身>の蜂で刺し貫く。すると、ここでも隠し通路が現れる。
それを見ると、トーリは困ったようにフードの上から、後頭部を撫でる。
「まぁ、そんなことよりも。やっぱりダミーだよね。しまった、思ってたより
曖昧な陰りのある声で呟き、檻から出ると、檻の連なる道を歩いていく。
「まずいねぇ。どうせダミーの隠し通路は、外づらだけで、どこにも繋がってないだろうし」
そう呟き、トーリは、気怠さからにじみ出たような、無機質な揺らめきを持った動きで、一つずつ、サッと檻の中を照らし、手早く檻の中を確認しながら歩いていく。
しばらく歩くとトーリは、途中にあった一つの檻の前に立ち止まり、懐中電灯で中を照らし出し、覗き込む。
そこには今までの死体の中でも、最も状態の悪い少女の死体が横たわっていた。
そんな死体の少女の肌は、湿りけのある
その肢体には、大きい傷がいくつも付いており、黒ずんだ傷口からは虫が沸いている。いくつもの傷の影響で、腐食が進んだ肢体の皮膚は、その皮膚の境界が乱れたかのような、淀んみのある、ふやけを持って膨らみ、その部分の皮膚の緑には、黒ずみが混じり出している。
しかしその上半身には、傷はあまりなく、顔に関しては不自然なほど無傷であり、皮膚は、
それを曖昧さからにじんだ、湿り気のある呆然とした雰囲気で見つめていたトーリは、その檻の、近くの檻を照らし、そこに放置されている死体の様子を、確認しに行く。
近くの檻の死体は、腐りかけであったり、干からびたような状態あったりとしており、羽虫がたかっている。
ひどい有様ではあったが、今までの死体の状態と、そこまでの違いはない。
そんな死体の様子を確認したトーリは、楽しさからほぐれたかのような、絡みつきを宿した動きで、口角を釣り上げる。
「ものを隠すときの、見つからない鉄則として、まず人が見たくない所であること。そしてそこにあってほしくないと思わせる所であること。荷物運びの大原則だよねぇ」
そう言いながら、最も状態の悪い、死体の少女が放置されている檻の前に戻る。
「でも、まぁ、あんな馬鹿なことする奴らなだけあって、最後の最後で、詰めが甘い」
そう言いながら、檻の扉を押し開け、入っていき、トーリは、飛び回る羽虫を払いながら、死体の少女の顔を覗き込む。
死体の少女は仰向けに倒れ、顔を横に倒して、薄汚れているが細い金髪が微かに、その顔にかかっている。その見開かれた乾いた茶色の瞳の、その目頭には、涙の代わりのように白い幼虫が這い出てきて、落っこちる。
眉間から、高い鼻先に向けて流れる途中の鼻筋は、強く、しかし滑らかに凹む。
そんな死体の少女を見つめ、トーリは絡みつきを持った動きで、小首を傾げる。
「あれ、この子? あぁ、もしかして、あの二人が探してた、人質の妹かぁ。鼻筋がそっくりだ。なるほど、やっぱり死んでたんだね」
トーリは、そう言いながら、死体の少女を蹴り、退かす。傷口に溜まってい白い幼虫が、黄色がかった粘液と共に流れ、出て来る。
「彼らが、こんな辛い現実、知らずに済んでよかったよ。いやぁ、いいことしたなぁ」
トーリは、しみじみとした湿った呟きを漏らす。
すると〈分身〉の蜂が、死体の少女が横たわっていた床に、その巨大な針を突き立て、床を壊す。そこからまた隠し通路が現れる。
床を壊した衝撃に、反応したかのようなタイミングで、トーリの胸元から芋虫が這い出て来る。
そしてトーリは、芋虫から、バスケットボールよりも微かに大きい馬陸の球体を取り出し、その球体から、本体の蜂を解き放ち、その腕に馬陸を巻き付ける。
本体の蜂が出てくると〈分身〉の蜂は、空気に溶けるようにして消えていく。
その様子を見届けると、トーリは、消えていない本体の蜂を引き連れ、現れた隠し通路の階段を、
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