4.首
そのままトーリが半壊した事務所を、少し進んでいく。すると、どこかからトーリの目の前に、大きめのボールのような物が落ちてくる。落ちてきたソレからは、水気のある粘液じみた、しかし確かに割れる音が響く。
トーリは粘度のある鈍い首の動きで、小首を傾げ、ソレの落ちた場所を見る。
そこには、顔の左上半分が抉れた、青年の生首が転がっていた。潰れかけた左上半分の頭の、明るい線の細い金髪の隙間から覗く、割れ目から
左目は、潰れた衝撃から押し出されたかのように、その眼球は飛び出して、眼球についている紐のような筋肉の繋がる眼窩の奥には、ひり出したような細い脳みその一部が飛び出ていた。
右頬の皮は剥がれ、その露出した頬の筋肉は伸びきっている。伸びきった頬の筋肉が、なんとか繋ぎ止める下顎は、皮が、ほぼ剥がれて、所々折れ、割れた下の歯が露出している。
転がっている青年の首を、トーリは細く長めの下唇を、親指の塗り込むような、粘着質な動きでなぞる。
そして死出虫を、放り落とし、新たに芋虫の背中から出てきた団子虫を抱える。
落ちた死出虫は、黒い外骨格が連なる腹をよじらせ、
するとその黒い光は死出虫から分離し、いくつかに分かれると、分かれた光は一回り小さい死出虫の姿となる。大きい方の死出虫は、何回か小さい死出虫を生み出し続ける。生み出された、小さい死出虫は、瓦礫の中に入り込み散らばっていく。
しばらくすると、そこら辺から小さい爆発がいくつも起こる。小規模の爆発音にまぎれ、そこら中から、悲痛な悲鳴が上がる。
それを聞きながら、トーリは青年の生首の元まで歩いていく。
大きい方の死出虫は、その小さい死出虫を生み出しながらトーリについていく。青年の生首の前まで来ると、トーリは青年の生首を踏みつけ転がし、弄ぶ。
頭蓋骨の割れ目から、更に脳みそがあふれ出す。
「うわ、きったね」
そう嫌そうに言うと、長く色素の薄い舌を出し、青年の首を蹴り飛ばす。
するとトーリの後ろで、微かに何かが動く音が聞こえる。トーリが粘性が纏わり付いたかのような、鈍い動きで振り返る。
そこには左半身を失い、そこから赤い肉が染み込むように張り付いている
口からは、泡立った、唾液の混じる血反吐が、長い糸を引き、垂れ流しとなっている。
そんな中年男性に、トーリは微かに口を、呆気にとられたように開く。
「へぇ、あれを食らって生きてるかぁ」
その言葉に合わせ、蟷螂が粘液感を持った、しかししなやかな、速い動きで中年男性の方を向く。
「それはそれとしてさぁ、ここの責任者、どこに居るか、知らない?」
トーリの気楽な声に、中年男性は
そして右肩だけで体重を支え、右手を向ける。すると中年男性の手の甲にある、炎をかたどったような
「ひどいなぁ。そんな
微かな悲しみの湿りをにじませた、困惑した声で言う。
中年男性の手に集まった炎が、放たれる、その
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます