第4話 特攻

 三人は事務所の扉の前まで来ると、中年男性が横開きの扉を開く。そしてトーリの方を振り向く。


「今日はありがとな」


 そんな中年男性と青年に対して、片手をあげて振る。


「この組織は、たぶんだけど奴隷から離れられない君たちを、時間をかけて疲れさせて、取り入れようとしてるわけだ。もしも君が、今後も、その子のために動き続けられるなら、吞まれないように気を付けなよ」

「おう」


 中年男性は短く答えて、背を向け、青年は小さく頭を下げる。そして二人は事務所に入っていく。

 そんな二人を、トーリは、微かに小首を傾げて見る。


「そういえば、君たちって、《トグロ》の関係者だったんだよねぇ」


 湿り気のある籠りのある小さな、しかし纏わりつくような粘度にて、よく響く声で言う。それと同時に、トーリの体から、黒い粒子があふれ出る。そしてトーリの斜め上に集まり出す。


「あぁ、そうだが」


 中年男性は答えながら、トーリを振り向く。 


 そこには、黒い外骨格を持った人間より、微かに大きい蜻蛉トンボを呼び出し、侍らせた、トーリが居た。


 蜻蛉の、中年男性と青年を見つめる、陰湿さのある光沢を持った黒い複眼は、纏わりつくような微かな青色を帯びている。


「おっ、おい! ちょっと待て! 確かに、そうすれば手っ取り早く、ここにいる奴は助けられるけどよっ! でも、ここは末端でしかねぇんだ!」


 中年男性は、トーリに慌てて、そう叫ぶ。


「だから嬉しいけどよっ、今そんなことしたって、なんの解決にもなんねぇんだっ!」


 続けて、そう叫ぶ。

 するとその声を聞きつけ、中に居た構成員たちが入り口に集まり出す。

 その様子に、中年男性は苦々しい表情を浮かべる。


 そんな状況を意に介することなく、蜻蛉は薄い青がかった黒いオーラを放ちだし、やがて収束させ始める。


 蜻蛉とトーリの様子に、集まってきた構成員たちは、殺気立つ。

 するとそんな構成員たちの前に、青年が立ちはだかる。


「ちょっ、ちょっと待ってください! この人は、さっき僕に良くしてくれた人で! 少し、行き違いがあっただけなんです!」


 そう構成員たちに向けて言う。そしてトーリを振り向く。


「そうですよね。何とか―――」

「―――トンボちゃん、特攻」


 その瞬間、蜻蛉が、自らの頭部をかたどった巨大な黒い虚像を、前方に生み出して、薄青の混ざった黒いオーラを噴出しながら、凄まじい勢いで、青年に突っ込んでいく。

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