二〇二四年二月二一日

 昼勤務の後に、と珍しい人からお誘いがあった。日向ひむかい健吾けんごさんとは、自分が社会人枠で入学した大学のサークル活動で出会った。といっても彼は自分の六歳年下。地元の国立大学卒業後、地域政党員として若者支援活動のリーダーを務めていた。自分は学外サークル活動での対談に参加し、彼に辛辣な意見を連ねただけだった。彼もそれをしっかりと覚えていた。それ以来、互いのインスタストーリーを閲覧していた程度の交流だった。しかし彼が率いるイベントをインスタにて知ったことで、関わり方が大きく変わった。寸志程度のお礼を目的に、自分が学生対象の物資支援イベント告知チラシ配布を手伝ったのだ。彼は、そのお礼にカフェでご馳走したいとのことだった。お礼なら物資支援会場にて寸志以上の食料品をもらったので十分だった。しかし自分は日常とかけ離れたことをしたくて仕方がなかった。ガイドでの出会いとは別の、新たな交流に飢えていた。

 自分たちはショッピングモール入り口にて待ち合わせ、徒歩圏内にある彼の推しカフェに向かった。

 カフェではゆうこうという長崎県産柑橘を使用したサイダーをご馳走になった。彼に合わせてコーヒーを注文することも選択肢だったが、あえてガイドに備えたリサーチ費用を出してもらった。事情を話すと、彼は喜んで自分の経験談に耳を傾けてくれた。

 当時自分は彼の仕事を深く理解していなかった。腹の底では戯言だと嘲笑されていたとしても、相槌を絶やさず聞いてくれたことが心底嬉しかった。どの枠でもない瀬谷知美として見てくれたことがこれほど心身が軽くなるものだと知らなかった。

一時間はあっという間に過ぎ、炭酸で全身の血流が巡りやすくなったように感じた。

帰り際、私の耳に爆弾が入ってきた。

「恋愛として好きなんですよね」

 告白されたこと自体、滅多にないことだった。しかも、彼は最も真剣な告げ方だった。言葉に対する疑いも多少あったが、この心身の自分に対して少しでも好意を持っているということの方がはるかに驚くべきことだった。

 自分は正直に、混乱していることを伝えた。彼は交際についてしっかり考えてほしい、返事を待つと応えてくれた。

 結果として交際が始まるのだが、自分がショッピングモールの女になり切れないという確信が深まるだけだった。

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