第3章 向日葵
#10 友人宅にて
友人たちの中で一番乗りで結婚した
「あっ、ここ? 広ーい!」
門の外から少し覗くと、芝が生えた広い庭があった。塀のほうには向日葵も咲いていて、夏を迎える準備はバッチリだ。ちなみに向日葵の花言葉はいくつかあって、総合的には〝I love you〟らしい。
「いらっしゃい」
「お邪魔します」
彩未に迎えられリビングに通されると、休日だったので夫・
「良いなぁ、こんな広い庭のある家……旦那さんも若く見えるし」
「いや、そんなこと……。あれかな、大学のとき年下の奴らと過ごしてたからかな」
孝彦は大学を二年休んで海外を旅していたと彩未から聞いたことがある。世界の文化に触れてきて、日本に帰ってやはり、日本が一番良いと改めて思ったらしい。
「そういえば汐里、だいぶ前に彼氏と別れたって言ってたやん? あれからどうなん?」
その話を聞いたのは、一年ほど前だ。汐里は学生時代から同級生と長く付き合っていたけれど、なかなか結婚の話にならないので汐里からふったらしい。
「全然。でも、もしかしたら元彼と
「ふぅん……。美姫は? 確か、八歳上の彼氏と別れたとは聞いたけど……今もフリーなん?」
「まぁ、うん。実はあのあと十歳上の人と付き合ったんやけど、ジェネレーションギャップを受け入れてもらえんかって一瞬で別れたわ」
「美姫ちゃんって──年上がタイプなん?」
「はい。でも、上すぎたらダメみたいで……一桁が限界かなぁ」
「じゃあさぁ、俺の友達、みんな独身やから紹介するわ。俺が一番年上やから、他の奴らは八とか九とか上やわ。まぁ、無理にとは言わんけど。今度、庭で友達集めてバーベキューしようと思ってて」
彩未と孝彦の友人を招いてのバーベキューは、八月の下旬に開催された。桐野家に到着したのは美姫と汐里が一番だったので、一緒に準備を手伝っていた。庭の向日葵が大きくなっていたので、孝彦に女三人での写真を撮ってもらった。
他のメンバーたちは、駅からの道中で仲良くなったらしい。ただし、彩未の学生時代の友人たちは全員彼氏がいるようで、男性たちはショックを受けていたけれど。
それはつまり、美姫にだけ男性を選ぶ権利ができているわけで──、性格が合わなさそうな人はいないけれど、年相応に惹かれるところはそれぞれあるけれど、今のところは誰も選べない。
「あれ? べーちゃんは?」
孝彦の友人が一人いないらしい。
「遅れるから先にやってて、って。すぐ来るらしいけど」
「ふぅん。じゃ、始めよか」
男性陣が火の準備をしてくれて、女性陣は彩未を手伝って食器や食材を運んだ。お肉はもちろん食べたいけれど、野菜も必要だ。
彩未の大学の友人たちはさておいて──。
孝彦の友人は年上なのもあって、とても優しくて話しやすかった。美姫が炭を触っていると〝黒くなるから〟、〝暑いから〟と交代してくれたし、焼き上がった食べ物も持ってきてくれた。
「今日の女の子で彼氏いないのって、美姫ちゃんと汐里ちゃんだけなんやな?」
驚いたのは、ちょうど火の番を代わってくれた
「……らしいです」
「ええ……。美姫ちゃん──年上はどこまでOKなん?」
「ええと……」
「遠田おまえ、嫌がることするなよ?」
和真が少し美姫との距離を詰めようとしていたところ、孝彦が来て助けてくれた。
「決めるのは美姫ちゃんやからな?」
「分かってるって」
和真は笑いながら持っていたトングを孝彦に預け、今度は汐里に話しかけにいってしまった。汐里も楽しく相手をしているけれど、残念ながら彼女の好みは同年代の男性だ。
「ごめんな、あいつ、悪いやつちゃうんやけどな。女の子見たらすぐ、ああいうこと言うから、あ──ごめん、電話──もしもし?」
電話の相手は、遅れている友人だったらしい。
「今どこ? 門の前? 待ってて、開けるわ」
孝彦が電話を切りながら門へ向かうと、他のメンバーたちも彼を追った。美姫も行こうと誘われたけれど──、足はどうも動いてくれなかった。美姫が動けないのは孝彦も見ていたようで、友人を連れて挨拶に戻ってきた。
「美姫ちゃん、こいつが──」
孝彦は、遅れていた友人だ、と言おうとしたけれど。
「いわ、せ、さん?」
「──こんにちは」
「え? もしかして、知り合い?」
孝彦が最初に〝べーちゃん〟と言ったとき、そんな予感はしていた。珍しいあだ名ではないので気のせいかとも思ったけれど、メンバーの年齢と、会社で見た社員のスケジュールから、ほぼ確実にそうだろうと思った。遅れて来た孝彦の友人は、紛れもなく堀辺祐宜だった。
「会社の、同僚……」
「なんや、それやったら別に挨拶いらんな?」
祐宜は他のメンバーに連れられて、テーブルのほうへ行ってさっそく和真から飲み物をもらっていた。美姫も何か食べたかったけれど、やはり足が動いてくれなかった。
「美姫……、どうしたん?」
彩未は一部始終を部屋の中から見ていたらしい。
「前に、関わり方が分からん人がいる、って話したの覚えてる?」
「うん、確か人事の男の人って?」
「それ……、いま来た人」
「えっ? そうなん? うわ……なんか、ごめん」
「ううん、良いんやけど……、いろいろあって……情報の整理が追い付かん」
美姫が彩未に話している祐宜の情報は少々古かったので、今年になってからの出来事を簡単に話した。バレンタインからホワイトデー、それから七夕のことだ。
「待って待って、旦那の友達、みんな彼女おらんはずやで? その、べーちゃん、て人なんか特に……」
「……どういうこと?」
美姫が困惑していると、彩未はまた美姫に謝った。
「正直に言うとな──、あの人に美姫を紹介するつもりやったらしいねん。あとはみんなついでで」
彩未の友人に年上男性が好きな子がいるからバーベキューで会ってみないか、と孝彦が彼を誘い出したらしい。祐宜は参加を渋っていたけれど、最終的に参加してくれた。そして今は──友人たちとバーベキューを楽しんでいる。
「てことは……彼女いないってこと? でも、七夕に……」
祐宜は短冊に、幸せな家庭を築けますように、と書いていた。孝彦の知らないうちに彼女ができて婚約したのだろうか。
「ちなみに美姫はどうなん? 嫌いではないやろ……?」
祐宜が楽しそうにしている姿を見て、彼に対する好感度はまた少しだけ上がった。上がったけれど、彼のことはますます分からなくなった。
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