第12話 食う寝る犯す
先の冒険者パーティーの襲来から数日が経った頃、それは起こった。
「な……何だ……一体何が……」
ダンジョンコアを通して見える光景に、俺は思わず絶句する。
「クゥ~ン……」
隣で一緒にダンジョンの様子を見ていたフィンは、股の間に尻尾を挟み込んで、両手で頭を抱えながらガタガタと震えていた。
~~~
レモリーが食糧調達のために外出した後のことだ。
『侵入者が現れました。マスターは……』
「お、今回は人間か。」
ダンジョンコアが映し出した侵入者は人間で、野生を感じる獣のような目つきをしたオークと同じかそれ以上の巨漢だった。
年齢は30代〜40代くらいだろうか。
服がボロボロで全体的に汚らしい。
顎には何年も剃らないまま伸び放題になっていると思われる髭が生えている。
手入れの行き届いていないシルバーの髪は無理やり後ろへ流してオールバックにしており、その姿はまるで山賊の頭のようだ。
ロクな装備がないのを見るに、こいつは冒険者ではなさそうだし、ただただこのダンジョンに迷い込んでしまったのだろうか?
「とりあえずオークに相手させればすぐ終わりそうだな。」
つい最近オークを召喚してからというもの、大した犠牲もなく侵入者を排除し続けており、オークは既にこのダンジョンの主戦力となっていた。
冒険者でないのなら、今回もオークに任せておけば一瞬だろう。
俺はゴブリンで構成された工兵部隊へ、男をオークのいる場所へ誘導するよう指示を出す。
この工兵部隊は、オークを召喚したことによって戦う機会が減ったゴブリンで作ったもので、手動の罠を作動させたり、魔素を使わずにダンジョンの構造を変えたりするのが主な役割だ。
ちなみに、コボルトの方は武器などの道具作成にあたらせた。
工兵部隊は俺の指示に従って、オーク部屋以外に続く余計な道を岩で塞いだ。
『ここは行き止まりか……うーむ、なんか怪しいのう……?』
そんな工兵部隊が作った壁を見ながら男が呟く。
違和感に気づかないよう壁の近くは薄暗くしているのだが、突貫工事すぎてさすがにバレたか?
『……まあ、ええわい。』
だいぶ気になっている様子ではあったが、結局彼は違和感の正体を突き止めることなく素通りしていった。
男はしばらく道なりに進んでいき、ダンジョン内のとある部屋の前へとやってきた。
『1、2、3、4……5体か。』
男は部屋の中を指を差しながら何か数えている。
彼の指の先にいたのは、5体のオークだった。
大斧と大盾と剣を持ったオークがそれぞれ1体ずつ、そして弓を持ったオークが2体と、役割がはっきりとしていてバランスが取れたパーティーだ。
たとえ本職の冒険者とまともに戦ったとしても、簡単にやられないどころか返り討ちにできるくらいの力がある。
『ふむ……まあ、今日はこいつでええわい。』
だが、冒険者でも戦うのをためらうような魔物の集団を前に、男は呑気にもそんなことを言いながら部屋の中へと足を踏み入れてきた。
「は……?」
なんだこいつ?
武器も防具も何も持ってないのに、なんでそんな散歩にでも来たかのように魔物の前を歩けるんだ?
何を考えてるんだ?
底抜けのバカなのか?
……いや、今はそんなことどうでもいい。
せっかく無防備な体を晒してくれているんだ。
「……そんなに死にてえのならやってやろうじゃねえか!」
『フゴオオオオォォォ!』
大斧や大盾を持っているオークの後ろ、弓を持ったオーク達が侵入者を排除するために弓を引き絞る。
矢じりを男の方へ向けると、番えていた矢から手を離した。
丸太のように太いオークの腕から放たれた矢は、ゴブリンが使うクロスボウから放たれた矢よりも速く真っすぐに飛んでいく。
『お……?』
眉間を射抜かんと二方向から迫りくる矢を、男はどちらも鷲掴みにして止めた。
そして、矢じりをオークの方へ向け、ジャベリンのように投擲してくる。
『フンッ……!』
矢は弓を持っていたオークの脳天に突き刺さった。
「え……?」
まさかオークがやられるとは思っていなかった俺は、驚きのあまり思考がフリーズしてしまう。
男は手に持っていたもう一本の矢を、さらに投擲してくる。
しかし、この矢は男から見て手前側に立っていたオークが持っていた大盾をかざして防いだ。
「クソッ!貴重なオークが……!あいつ、ただの人間じゃねえのか……?」
『ブオオオオォォォォ!』
大斧を持ったオークが咆哮を上げながら男へ突っ込んでいく。
剣を持ったオークがそれに続いていった。
『ほぉん……いい
オークは男の前に出ると、大きく振り上げた大斧を勢いよく振り下ろす。
男はその巨体に似合わぬ軽やかな動きで、オークの一撃をひらりと躱した。
そして、オークが持っていた大斧の柄を掴んでひったくると、そのままオークへ前蹴りをかます。
蹴られたオークは後方へと転がっていき、壁に頭をぶつけて動かなくなった。
『ブモオオォォォォ!』
今度は別のオークが男へ近づいて、剣を振り下ろす。
男は斧の柄で剣を滑らせ、この攻撃を受け流した。
『ハアッ!』
そして、剣を振り抜いた後のオークを大斧で切りつけ、その体を真っ二つに両断した。
オークが強く握り込んでいた手が力なく緩み、持っていた剣は地面に落ちていく。
『あと2体か。あの盾は……面倒じゃのう。』
オークの持つ大盾を見ながらそう呟いた男は、持っていた大斧を大きく振りかぶる。
そのまま勢いをつけるために1回転、2回転し、さらにもう1回転しようかというところで体を急停止させ、大斧を手放した。
『オラァァァァァ!』
遠心力によって宙に投げ出された大斧はグルグルと回転しながら飛んでいき、オークが構える大盾を粉々にしながら貫通して、オークの腹へ深々と突き刺さった。
『フゴッ……!』
斧が刺さったオークは赤黒い液体を大量に垂れ流しながら仰向けに倒れていった。
残るオークは弓持ちの1体のみ。
オークが男へ狙いを定めて弓を引き絞るが、それよりも速く男は地面に落ちていた剣を拾い上げると、矢の時と同じようにオークへ向かって剣をぶん投げた。
剣はオークへ向かって一直線に飛んでいき、吸い込まれるようにその心臓へと突き刺さる。
『ゴッ……』
「全滅……だと……?」
5体いたオークが全滅した。
武器を持たせ、パーティーまで組ませたというのに全く歯が立たず……全滅した。
それも、到底冒険者には見えないどころか武器すら持っていなかった男に、だ。
それはあまりにも衝撃的な出来事で、ダンジョンコアから映し出された現実をすんなりと受け入れることはできなかった。
『フ……フゴオオォォ……』
俺が言葉を失って立ち尽くしていたら、ダンジョンコア越しにオークの声が聞こえてきた。
その声にハッとなってダンジョンの様子を見ると、男に蹴り飛ばされていたオークがふらつきながら起き上がるところだった。
どうやらあのオークは気絶していただけで、死んではいなかったらしい。
『ふうむ……手加減したとはいえもう起き上がるとは……なかなか活きが良いのう!』
男はいやらしい顔でニヤリと笑うと、パンと手を合わせて詠唱を始めた。
『母なる大地より生まれし木よ!蔓よ!欲望の赴くままにヤツを絡め取れ!【
男が片膝をついて両手を地面にかざす。
すると、突如オークの周りに何本もの木の蔓が生えてきて、手に、足に、体に巻き付いてオークを拘束した。
力ずくで拘束を解こうと抵抗するオークだっが、その細い蔓は見た目以上に頑丈だったのかびくともしない。
『ガハハハハハ!ムダじゃ!お前さんにゃあそいつはほどけんよ!』
豪快な笑い声が聞こえてくる。
『さて、ここいらでメシにするのもいいが……そのまえに
そんなことを言いながら男はオークまで近寄ると、不意に自分の腰に手を当ててカチャカチャと音を鳴らし始めた。
……何だ?
オークに止めも刺さずいったい何を……?
俺がその行動の意図を理解できずに困惑していた次の瞬間、衣擦れの音と共に男の下半身が露になった。
「……な……!」
男の股間にある立派な
男は蔓が絡まって動けないオークの背後に回ると、何かに気づいて下卑た笑みを浮かべる。
『お前さんそうか……メスか。そりゃあよかった!』
『ブ……ブモ……』
……オークにメスがいるのか……初めて知ったな……。
そして男は……いや、みなまで言うまい。
あろうことに、人間の男が魔物のオークを犯し始めた。
『ピギイイイィィィィィィィィィ!』
部屋中に響き渡るオークの悲鳴、無惨な姿で転がっている4体のオークたち、そして快楽に身を委ねる男……。
オーク血で真っ赤に染まった部屋の中は、まさに地獄のような光景だった。
~~~
……俺達は一体何を見せられているのだろうか?
汚ねえおっさんとオークの需要なんざどこにもねえし、オークと言えば女騎士が相場だというのに……。
ひとしきり済ませて男は満足したのか、上機嫌でズボンを履きなおしている。
一方、犯されていたオークはぐったりとしていた。
『……ブモ……』
『ああ……ちいとばかし運動したら、腹が減ったのう。』
そう呟くと、男は近くに転がっていたオークの死体を拾い上げて貪り始める。
「コイツ……本当に人間か……?」
人間ではなく鬼や悪魔だなんて言われても不思議じゃない。
『フワァ〜ア……腹もふくれたら眠くなってきたわい。』
床に転がっていたオークを食べ尽くした男は、拘束しているオークを仰向けに寝転ばすと、その腹を枕にして自分も寝そべった。
「………………」
俺のオークはこんな奴にやられたのか……?
ダンジョンという危険地帯で敵を枕に眠るようなバカに……?
……バカはバカだがこの男、それでもあの力だけは本物だ。
早く何か手を打たなければ。
じゃないと本格的にこのダンジョンに住み着いて面倒なことになるかもしれない。
『ぐごおぉぉぉ……ぐがあぁぁぁ……』
バカでかいいびきをかいて眠っている今なら簡単にやれるか……?
「フィン、お前行くか?ちょっくら寝首をかいてくるだけでいいから……」
「ワウッ!?ワンワンワンワン!」
俺の問いに、フィンはもげちまうんじゃないかってくらい全力で首を横に振った。
相当行きたくないようだ。
本能で拒絶しているのだろう。
ちなみにレモリーから聞いたのだが、どうやらフィンはメスらしい。
「だよなあ……ハァ……」
俺も気の狂った変態なんぞ相手にしたくはない。
だが、こうなったらもう俺が行くしかないだろう。
ヤることヤって満足したら森に帰っちまえばよかったのに……。
何もしていないのにものすごい疲労を感じながら、俺は変態の討伐へと向かうのだった。
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