第11話 不穏な気配
「お疲れ様です、魔王様。今回も素晴らしい戦果ですね。」
レモリーが優しい笑みを向けながら労いの言葉をかけてくる。
「ああ、当たり前だろ?」
カインとかいう斧使いがハチェットで暴れ始めた時は正直ヒヤッとした。
それにゴブリン2体、コボルト1体、スライム4体と、数で言えばこっちの方が被害は大きかったのだが、勝ちは勝ちだ。
最後まで立っていた者が正義であり、どれだけ強くとも死んでしまっては何の意味もない。
「スリングショットとクロスボウを試しに使ってみたんだが、なかなか悪くないな。」
膂力の弱いゴブリンやコボルトをどうやって戦わせるか考えた末に、非力でも扱えるクロスボウを持たせてみたのだが、これがうまくハマってくれた。
手先が器用だからなのか意外にも狙いをつけるのが上手く、これからはこの戦い方をメインにして戦ってもいいだろう。
また、新たに導入したスリングショットでスライムを撃ち出すという作戦も、うまく機能してくれた。
これはスライムショットとでも名付けようか。
「ワンッ!ワンッ!」
フィンが誇らしげな顔で鳴く。
実はクロスボウとスリングショットはフィンが製作していたので、役に立てたのが嬉しいのだろう。
なんとなくフィンの頭を撫でてみる。
「わふぅ……」
フィンは気持ちよさそうに目を細めた。
そんな俺達へ、レモリーが渇望の眼差しを向けてきた。
……果たして彼女がフィンに触れられるようになる日は来るのだろうか?
そんなことをしていたら、ダンジョンコアが急に光って回転し始めた。
「……?何だ……?」
今日はいつにも増して主張が激しいな。
何事かと思ってダンジョンコアに触れてみると、どうやら侵入者達の魔素を取り込んで成長し、新しい魔物を召喚できるようになったらしい。
早速召喚してみる。
目の前に黒いモヤが発生し、モヤの中から二足歩行の豚が現れた。
「フゴオオオォォォ!」
どうやらこいつはオークという魔物らしい。
2mを超える巨体と、口元に見える鋭い二本の牙がなんとも威圧的だ。
筋肉の付き方からして、ゴブリンやコボルトよりも強そうに見える。
「オークか……こいつは使えるのか?」
「オークはゴブリンやコボルトと比べて遥かに強力な魔物ですね。討伐には冒険者がパーティーを組む程ですし、戦闘ではかなり重宝するかと思われます。」
「そうか。」
なるほど。
とうとう念願の戦闘要員を手に入れることができたというわけか。
人間相手に苦戦が続いていたが、これで少しは楽になるかもしれないな。
「そういえばあの冒険者、いい感じの斧持ってたよな?」
ふと、さっき倒した冒険者が持っていた装備のことを思い出す。
何かに活用できないかと一通り回収していたのだが、ゴブリンとコボルトでは力が足りなくて使えない大斧や大盾も、オークなら普通に使えそうだな。
さしあたっては、武器としても盾代わりにもなる大斧を渡すべきか。
「おい、さっきの大斧をオーク用に調節しとけ。」
「ワンッ!ワンッ!」
俺が指示を出すと、フィンは任せろと言わんばかりにぷにぷにの肉球で自分の胸をポンと叩いた。
レモリーはその様子を目に焼き付けるように凝視していた。
今までダンジョンの戦闘要員を維持するので手いっぱいだったが、そろそろ道具を作るためのゴブリンやコボルトを増やし、魔物の装備について見直すべきだろうか。
……まあ、それは主戦力になりそうなオークの数を増やしてからだろうな。
その後俺はもう1体オークを召喚してダンジョン内の適当な場所に配置し、フィンに回収した大斧と盾を渡すのだった。
~~~
フォレストヴォルフという魔物がいる。
フォレストヴォルフは森に住む狼の魔物で、暗闇に溶け込む灰色の毛並みが特徴だ。
普段は5〜6体の群れで行動し、素早い動きと鋭い爪や牙で狩りをする。
そんなフォレストヴォルフはエキナセア王国の外れにある森にも生息しており、5体のフォレストヴォルフが山賊のような見た目の男を取り囲んでいた。
「グルルルルル……!」
この群れのリーダーだろうか。
一回り大きなフォレストヴォルフが唸り声を上げながら男を睨みつけている。
「バウッ!」
リーダーが一鳴きすると、周囲を取り囲んでいたフォレストヴォルフ達が一斉に男へ跳びかかった。
「フンッ!」
「ギャワ゛ン゛!」
男の右側から飛びかかってきたフォレストヴォルフに拳を合わせてカウンターを放つ。
見事フォレストヴォルフの脳天に彼の拳は突き刺さり、その命を刈り取った。
「ガウッ!」
反対側からもう一体のフォレストヴォルフが男の喉笛に噛みつかんと、大口を開けて襲い掛かって来る。
だが、男は空いていた左手でフォレストヴォルフの頭を鷲掴みにして持ち上げた。
そして、上下をひっくり返して尻尾を両手で握りこむと、野球のバットのように思いっきり振り回す。
「キャイン……!」
「キューン……!」
男が振り回したフォレストヴォルフの頭部が2体のフォレストヴォルフの頭部にクリーンヒットし、一気に3体のフォレストヴォルフが戦闘不能に陥った。
「さあて……あとはお前だけじゃのう?」
そう言って男は猟奇的な笑みを見せる。
「グルルルル……」
最期の1体となったフォレストヴォルフは低い声で唸りながら男を睨みつけていたのだが、目の前の男に勝てないと踏んだのか急に踵を返してこの場から逃げ出した。
「なんじゃあ……つまらんのう。」
期待が外れたのかつまらなそうに男が呟く。
そしてその辺に落ちていた小石を拾い上げ、逃げるフォレストヴォルフ目がけて全力で投げた。
「バウッ!?」
小石はフォレストヴォルフの後ろ足に命中して骨をへし折り、バランスを崩したフォレストヴォルフは前につんのめる。
倒れて動けなくなったフォレストヴォルフへ、ゆっくりと男が近づいてきた。
「バウッ!バウッ!」
「じゃあの。」
男は右足を大きく上げると、恐怖で吠えるフォレストヴォルフの顔面を踏み抜く。
「バゥ……」
それ以降、フォレストヴォルフが声を発することはなかった。
「ふぅ……こんなもんか。」
男は周囲に散らばった5体のフォレストヴォルフの亡骸を眺めながら呟く。
辺りにはひどい血の臭いが立ち込めていた。
「……しかし腹ぁ減ったのう。」
そう言うと男は、近くにあったフォレストヴォルフの亡骸を持ち上げる。
手で強引に皮を剥ぐと、火も通さずに生のままフォレストヴォルフの肉にかぶりついた。
「まあ、悪くはないな。」
血で自分の体が汚れるのも気にせず、フォレストヴォルフの肉をペロリと平らげると、近くに落ちていた2体目のフォレストヴォルフに手をかける。
「ごっそーさん。」
男はそう言うと、森の奥へと消えていく。
彼が去った後には皮だけになったフォレストヴォルフが散乱していた。
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