第3話 初めての侵入者
『侵入者が現れました。マスターは直ちに侵入者を撃退してください。』
ダンジョン製作に勤しんでいたある日のこと、ダンジョンコアが激しく点滅し、警戒するように伝えてきた。
「魔王様!」
どうやらこのメッセージは俺だけに向けられたものじゃなく、実際に音声として発せられたようで、レモリーにも聞こえたらしい。
「とうとう来やがったな!よっしゃ、やってやるぜ!」
ダンジョンコアに手をかざす。
ダンジョンコアにはダンジョン内の様子を映像として出力する機能があり、その機能を使って侵入者の姿を映し出た。
特徴的な緑色の肌。
背は低く、耳がとがっていて、人に嫌悪感を抱かせるような醜悪な見た目だ。
防具と呼ぶには粗末な革鎧を身に着け、手入れの行き届いていないこん棒を手にしている。
「おい、コイツは何だ!」
「ゴブリンですね。」
ゴブリン。
この世界において、最弱とされる魔物だ。
一対一であれば子どもでも倒せるとまで言われる程に弱い。
だが、弱い反面繁殖力や適応力が高く、どんな劣悪な環境でもすぐに住み着いて数を増やしてしまう。
1体見たら100体は潜んでいると思えなんて言われるあたり、異世界のGとでも呼ぶべきだろうか?
「数は4体……アレの出番だな。」
ここまで準備してきたダンジョンの仕掛けが早速使えると思うと、つい口が歪んでしまう。
「そうですね。魔王様の最初の相手としては申し分ないかと。」
俺の言葉を聞いて、レモリーは冷静にそう答えるのだった。
早く
あの場所というのは、とある罠が仕掛けてある小部屋のことだ。
何もなかったこのダンジョンに、今使えるリソースを駆使し、この数日間で罠を作っていた。
「来たな!」
そうこうしているうちにゴブリン達がその小部屋の前までたどり着いていたらしく、先頭を歩いていたゴブリンが足を踏み入れてくる。
他のゴブリン達は部屋の前で待機しているところを見るに、どうやらコイツは安全確認のための斥候らしい。
魔物のくせに、斥候なんて使いやがって……。
そんなことを考えていたら、レモリーが心配そうに声をかけてきた。
「いよいよですね。……魔王様、肩に力が入っているようですが大丈夫でしょうか?」
「チッ……わかってら!黙って見てろよ!」
「……失礼いたしました。」
どうやら初めての侵入者ということで、彼女には俺が緊張しているように見えたらしい。
余計なお世話だと思ったが、なんだか興奮して昂っていた俺の心が程よく落ち着いた気がした。
『ゲギャギャ……』
斥候のゴブリンは、キョロキョロと辺りを見回している。
恐らく独り言を喋っているのだろうが、なんとも不快な気分になる鳴き声だ。
「よし、まずはこいつだ!」
ダンジョンコアの力を使って、部屋の中にいるゴブリンの目の前にスライムを召喚する。
『ゲギャッ!?ゲギャギャ!』
突然目の前に現れたスライムに驚くゴブリン。
そして、小部屋の入り口付近で待機している仲間を呼んだ。
一対一だと分が悪いので、全員で囲んで倒すつもりなのだろう。
部屋の前にいたゴブリン達は、斥候ゴブリンの呼びかけに応じて駆け足で部屋の中に入ってくる。
『ゲギャギャ!』
4体のゴブリン達が合流してスライムを睨みつけた。
「今だ!」
ゴブリン達が一か所に固まったタイミングを見計らい、俺はダンジョンコアを通して
すると、ゴブリンたちの真上からスライムがボトボトと落ちてきた。
「ゲギャポッ……!」
突然の出来事にゴブリン達が驚く間もなく、スライムが顔を覆うようにゴブリンの頭へ張り付く。
鼻と口をふさがれて呼吸ができず、手足をバタバタを動かしながら苦しそうにもがくゴブリン達。
「ハッ!おい、あのゴブリンどもを見てみろ!面白いように引っかかってくぞ!」
「さすがです、魔王様。狙い通りですね。」
これが人間だったら、魔法なりなんなりで簡単に対処されていたかもしれない。
しかし、最弱の魔物であるゴブリンにはスライムを引き剝がすだけの力もなければ知恵もなかった。
『………………』
ロクな抵抗もできず、1体、また1体とゴブリンが倒れていく。
俺がこの数日間で作った罠――スライム落としとでも呼ぼうか。
実戦で使うのは初めてだったが、なかなかに良い出来なんじゃなかろうか?
あまりにもうまくいきすぎて、思わず笑いが出てしまう。
「ハハハハハ!どうだ!俺の罠は!1匹残らず……あ?」
3体目のゴブリンが倒れたところで、ダンジョンの映像を見ていた俺はあることに気がついた。
「……チッ!」
運よくスライムから抜け出したのか、1体だけ生きているゴブリンがいた。
どうやらスライムの落下位置が悪かったらしく、コイツだけ直撃を免れていたらしい。
「1体だけ残っちまったか……
「そのようですね。ですが、3体もゴブリンを倒せたので、初めての実戦にしては悪くないかと思います。あとはスライムに任せますか?」
小部屋にいるスライム達だけでも、ゴブリン1体くらいなら簡単に倒せる。
そのため、ここにいる俺達は戦況を見守っているだけでいい。
「……いや、せっかくの侵入者だ。俺が出る。あのゴブリンには、魔法の練習台になってもらおうか。」
この数日間、俺はダンジョン改修の傍ら、レモリーから魔法を発動するための手ほどきを受けていた。
その結果、ごく基本的な魔法を使えるようになった。
魔法という力が使えるようになったところで、早速使ってみたいという欲が出て来る。
初めての実戦ということで多少の不安はあるが、単体のゴブリン程度ならやられることもないだろうし、ちょうどいい相手だろう。
そんな理由で俺はこの手でゴブリンを倒すことに決め、スライムたちにゴブリンを逃がさないよう指示を出す。
そしてダンジョンコアから手を離し、レモリーと共にゆっくりとゴブリンのいる小部屋へと向かうのだった。
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