第21話 ハーレムかな?

 保坂さんは俺を見るなり立ち上がり、静かな足取りでこちらにやって来た。


「遅かったね」

「ホームルームがありましたから」

「でも他の人たちは来てるけど」

「それは、担任の先生によってホームルームが長引いたりしますので」

「翔の担任は長い方?」

「そうですね、割と長いと思います」


 俺のクラスの担任は英語教師ということもあって、連絡事項やどっかの有名人の名言などを英語を交えて話すので余計に長い。

 ちなみに授業中もそんな感じなので、授業の進みが遅い。


「というか、来てくれたんですね」

 

 無理矢理入らされただけと言ってたから、来ないだろうと思っていた。

 そのせいで美術室の雰囲気がちょっと微妙に悪い感じになってしまっているけど、俺は嬉しい。


「だって、翔に誘われたから」

「確かに誘いましたけど、正直、来ないだろうなって思ってました。なので嬉しいです」


 部活に興味がない保坂さんがこうして来てくれた。それも、俺に誘われたからという理由で。こんなにも嬉しいことがあるだろうか。


「それって私に惚れてるってことでいい?」

「またそう言うことを。単純に嬉しいだけです。惚れてるとかそういうのは……」


 真に受けてはダメだ。

 保坂さんは俺のこと好きで言ってるわけじゃない。恋というものを知りたいがために言っていること。


 そうやって冷静になろうとしていると、後ろから制服の裾を掴まれ、何度か引っ張られる。


「河岡くん、河岡くん」


 振り向くと、少し拗ねているのか、唇を尖らせた徳永さんが俺の顔をジッと見つめてきていた。


「早く練習しないと時間なくなっちゃうよ」

「おっといけない」


 せっかく徳永さんが絵の練習に付き合ってくれるんだから、待たせるのは悪い。


「保坂さん、今日は特別に徳永さんが絵の練習に付き合ってくれるんですけど、良かったら一緒にどうですか? 俺としては絵の上手な二人から教えてもらえると物凄くありがたいです」

「最初からそのつもり。他にやることない。それに、翔の育成プログラムはまだ始まったばかり」

「あの、あれはもう止めてもらえると……なんて言いますか、心臓に悪いので」


 保坂さんのマイクロビキニ姿はとても魅力的だった。お陰で、思い出しただけでもあの時の興奮が蘇ってくる。

 それと、お父様に見つかってしまったことも。まだ誤解は解けてないんだろうな。


「そんなに私、魅力ない……少し残念」


 もう止めてくれると、と言ったのが魅力がないからという風に伝わったみたいだ。


 でも、いつものやる気のない目なので、全く残念そうには見えない。もしかしたら内心では、という可能性もある。

 というか、魅力的じゃないわけがないじゃないか。

 保坂さんはとっても魅力的だ。あんな際どいマイクロビキニなんて着なくても、今の、こうして俺を見つめる彼女はとても魅力的だ。


 ってか凄い見つめてくる。

 瞬きしてる? って心配になるくらい見つめてきてる。


「魅力的ですよ、とっても……」


 俺は何を言ってるんだ。もの凄く恥ずかしくなってきた。


「そう」


 反応薄っ!

 そうだよね。俺に言われても微妙だよね。

 少し傷ついたところで、話を戻す。さっきから徳永さんが俺の制服の裾を引っ張って急かしてくるから。

 これ以上待たせるわけにはいかない。


「とりあえず座りましょうか」


 教卓の真ん前の席に座り、右隣に徳永さんが、左隣に保坂さんが座った。

 両隣から女の子特有の甘い香りが漂う。

 なんだこの空間は。ちょっとしたハーレムだ。

 と言っても、二人から好意を寄せられているわけではないので、ハーレムかと言われるとちょっと違う。

 強いて言うなら家庭教師かな。


 こうして、保坂さん、徳永さんの指導の下、絵の練習を始めるのだった。

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