第20話 美術室は異様な雰囲気に包まれていた

 放課後、ショートホームルームが終わりぞろぞろと教室を出ていくクラスメイト。その流れに紛れて俺は美術部へと向かった。


「河岡くん」


 階段を降りていたら、後ろから声がしたので振り返ってみると、徳永さんがこちらに向かって階段を降りてきた。


「一緒に行こう」

「いいですよ」


 そう言った後で、あ、となった。つい保坂さんと話す時みたいに敬語になってしまっていた。


 徳永さんは「何で敬語なの」とおかしそうに笑いながら言った。


「ほんと自然だった。保坂さんにはいつも敬語だから、癖になってるかも」

「保坂さんとよく一緒にいるもんね……二人はどういう関係なの? 友達?」

「友達とは違う気がする。俺でもよくわかってないんだよね。ほら、保坂さんってけっこうフリーダムだし」


 友達と言う響きがあんまりしっくりこなかった。

 保坂さんとの関係性は俺でもよくわかっていない。強いて言えば、先生と教え子になるのかな。もちろん先生は保坂さんで、その生徒が俺だ。


 それにしても……。

 隣を歩く徳永さんの横顔はどこか落ち込んで見える。ついさっきまで笑顔だったのに。やっぱり保坂さんと何かあったんだろうか。


 ひとまず保坂さんの話は終わりにした方がよさそうだ。


「そう言えばコンクールに向けての作品はどう?」

「え、あ、うん、バッチリだよ。そうそうそれを言おうとしてたの」


 さっきまでの落ち込んでいた表情から一変、笑顔でこちらを見つめる徳永さん。

 でも、どこか無理しているように見えてしまう。たぶん、人がそんな簡単に気持ちを切り替えられる生き物じゃないと知っているからだろう。


「コンクールの作品はもう先生に提出しておっけい貰ったから、今日は河岡くんのお手伝いできるよ!」

「ほんとにいいの!?」

「うん! 特にやることもないから。むしろ手伝わせて。あんまり力になれないかもしれないけど」

「俺からすれば手伝ってくれようとしてくれるその気持ちだけで泣ける」

「お、大袈裟だって」


 わたわたと手を振って否定する徳永さん。

 謙虚で優しくて可愛くて。ほんと徳永さんは非の打ち所がないな。これはモテるわけだ。だって、男が思い描く理想像そのものなんだから。


 程なくして美術室に到着。

 そして教室のドアを開けると、一気に視線が俺の方に集まった。

 なんだこの異様な雰囲気は。

 いつもの、のほほんとした雰囲気じゃない。

 かと言ってピリついているとかではなく、困惑している様子。


 その原因は火を見るよりも明らかだった。

 俺がいつも座っている、教卓の前の席に保坂さんが座っていたからだ。

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