第22話 練習、その隣で保坂さんは何やら
両隣に咲く花。
右手には保坂さん。
左手には徳永さん。
彼女たちに見守られながら好きな絵師さんのキャラを模写をするのはなかなかに緊張した。
何とか描き終えたものの、見比べると似ても似つかない。
「やっぱり全体的にバランスがおかしくなるんだよな。でも、どこをどう直したら良いのか全然わからないのが困ってる」
明らかに違うのに、どこを改善しなければいけないのか、それがわからない。
おかしいのはわかる。
ただ、どうおかしいのか説明しろと言われると難しいところ。
模写した自分の絵と絵師さんの完成された絵を見比べながら頭を傾げる。
「目が小さいかな。もうちょっと大きくていいよ。あと、髪の位置が下すぎる。これだとぺったんこに見えるから、もっと上だね。頭でっかちになるようなイメージで描くといいかも」
「なるほど」
徳永さんから指摘され、改めて見比べてみると確かにそうだった。
言われた通り消して描き直してみる。
するとどうだろうか。
全体的なバランスが一気に整った。似ているかと言われるとまだ微妙だけど、一枚の絵として見るならそれなりに見られる出来になった。
「おお」
思わず声が漏れた。
それに反応するように徳永さんが明るい声で喋りかけてくる。
「うん! だいぶ良くなったよ! というか河岡くんセンスあると思うよ。だって言われたことすぐにできるようになってるし、この調子で続けて行けば絶対上達する!」
「徳永さん褒め上手すぎ」
こんなにも褒めてくれるとめちゃくちゃ照れるんだが。それも真っ直ぐに見つめてられて。
やばい、ドキドキする。
「そ、そんなことないって。河岡くんの方こそ褒め上手だよ」
頬をほんのりと赤く染める徳永さん。本当に照れてるんだなってわかる。そこがまた彼女の可愛いところだ。
一方で左隣の保坂さんと言えば、ノートの切れ端で何やら作っている。
ってかその切れ端、俺の現代文のノートから取ってるよね。机の上に現代文って油性ペンで書かれたノート置いてあるし。
いつ取ったの!? まぁ別にいいけど、少しはこっちも見て欲しい。だって、寂しいじゃん?
でも、集中してるみたいだし、邪魔しても悪い気もする。
何か作ってるみたいだから、完成したらきっと見せてくれるはずだ。
それまでに俺が出来ることは、ひたすら絵を描くことだけ。
「さっき言ったことを意識しながら描いてみて」
「よし! やってみるよ」
それから同じ絵を繰り返し模写した。その都度、徳永さんから的確なアドバイスを貰いながら。
お陰で最初の絵と比べると目に見えるほど上達した。
それもこれも徳永さんの教え方が上手だからだ。
「ところで保坂さんは何を作ってるんですか?」
俺の現代文のノートから勝手に一枚ちぎって何やら使っている保坂さん。
どうやら完成したみたいなので訪ねてみると、俺のスケッチブックの上にそれを乗せた。
「絵を描いてる時の翔」
「すごっ! これどうやって折ったんですか!」
机があって、椅子があって、そこに座る俺がいて。全て一枚の紙で作られている。
前にも、俺がムキムキになった姿を紙で作っていた。やっぱり保坂さんは凄いな。次元が違うと言うか。
「あげる」
「え、いいんですか?」
「うん。要らないなら捨てるだけだから」
「捨てるなんて勿体無い!」
俺のノートを勝手にちぎって作ったものだけど、こんなにも完成度の高い作品を捨てるなんて勿体無い。捨てるくらいなら欲しい。それに、保坂さんが作ったものだし、欲しくないわけがない。
「そう言えば、前に紙でムキムキになった俺を作ってましたよね。あれはどうしたんですか?」
俺と同じ身長で作られた紙の造形。
あれ以来一度も目にしたことがない。
「捨てた」
「そうだと思いました……」
勿体無いな。かなり出来が良かっただけに、そう思ってしまう。
捨てるくらいなら欲しかった。
「また作ろうか?」
俺が残念そうな顔をしていたからか、保坂さんがそんなことを言ってきた。
「ぜひお願いします! あ、でも保坂さんが負担じゃなければですけど」
「一度作ってるから手順は出来てる。だから簡単」
「でしたらお願いします」
「うん、任せて」
「ありがとうございます。楽しみに待ってますね」
この時既に、俺は部屋のどこに飾ろうか考えていた。
机の横が空いてるからそこに飾るか。倒れないように工夫する必要があるな。
「ねぇねぇ、描かないの?」
俺が保坂さんと喋っていると、徳永さんが右手の甲をツンツンと突いてきた。
「まだまだ描くよ。せっかく徳永さんに教えてもらってるし。っていうか、徳永さん教えるの上手いよね」
「そ、そうかなぁ。河岡くんの覚えが良いだけだよ」
そう言いつつも徳永さんは頬を少し赤らめて照れていた。満更でもなさそうだ。こういう謙虚なところがまた可愛い。
「あ、あと少しだから、それまで練習しよっ」
「そうだね。それまで指南のほどよろしくお願いします」
そう頭を下げると、徳永さんが笑顔で応えてくれる。
「うん! 任せて!」
そうして部活の終わりを告げるチャイムが鳴るまで、ひたすら模写を続けたのだった。
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