第20話
放課後。星崎さんはやってこない。私はぽつんと教室に取り残されている。
正直こうなるんじゃないかなぁと想像していた。だから覚悟もしていた。はずなんだけれど、実際こうなると寂しさがぐぐぐと込み上げてくる。告白して振られるよりも精神的ショックは大きい。溶けかけたアイスをスプーンで掬うように心を抉られる。
こうして実際にあったことがなくなったりして、振られたということが現実として突き付けられる。昨日はぽわぽわとしてて、なんだか非日常がずっと続いているような感じだった。夢見心地というやつだろうか。いやうっとりなんかしないんだけれどね。振られているし。
振られている、振られている、振られている、振られている……。
「そっかぁ、私振られちゃったんだ」
言葉にすると、急に現実感が増す。
心に張っていた膜は溶けるように消えていき、振られたという事実を誰かが押し付けてくる。嫌だ、受け取りたくないと拒否して、子供のようにやだやだと駄々を捏ねても手は止めてくれない。
鼻が湿っぽくなる。目頭が熱くなる。危ない。あと少しで泣いてしまうところだった。私は泣かない。強い子だから。
世の中の人は振られた時どうしているのだろうか。この喪失感をどうやって埋めているのだろうか。埋めようと思っても埋まらない。その穴は時間経過とともにどんどんと大きくなる。小手先の技術じゃその進みを止めることさえできない。
「あー」
声を出す。少し気持ちは楽になる。
「あぁぁぁぁぁ」
また声を出す。さらに気持ちは楽になって、ぽっかりと空いた心の穴は埋まらないけれど蓋くらいは付く。
「あぁぁぁっぁぁぁあっぁぁっぁぁ」
私は人生で初めて教室で喉がどこかに飛んで行ってしまいそうになるほど大声を出した。私の声は響くことなく、まるでどこかへと吸い込まれるように消えて行った。
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