第17話

 放課後を迎える。

 いつもならば星崎さんを待つために教室に残るのだが、今日は残らない。距離を置かなきゃならないから。星崎さんは放課後になると私と会話し始める傾向にある。だから話しかけられる前に姿を消す。

 「じゃあ終わり。お前ら気を付けて帰れよー。部活する奴は最終下校時刻守れよ」

 という担任の声を背中にしながら私は颯爽と教室を後にした。

 逃げる。

 悪いことは一切していないのに、妙な背徳感が湧いてくる。ちょっと気持ち良さもあったりする。星崎さんのことを考えると、困っているかな、茫然としているかな、と少しだけ罪悪感のようなものも芽生えたりする。まぁそんなのは捨てるけれど。

 あっという間に自宅へと到着する。手だけ洗って自分の部屋へとレッツゴー。ごろんとベッドに身を預けてからスマホを確認する。

 スマホには沢山の通知が届いていた。星崎さんからだ。

 このスマホ特有の長押しで未読のままメッセージを確認できるあの機能を駆使して、来ているメッセージを確認する。おぉ、この機能を使うタイミングがあるんだ、って要らない感動をしながら。

 最初の一通目は『トイレ?』という問いかけだった。そこから十分ほど空けて二通目が飛んできている。二通目は『トイレじゃない?』という問いかけであった。で三通目は一分だけ空けて『近くのトイレ行ったけどいなかった』と来ていた。トイレにやたら執着しているけれどなんで。そんな疑問を抱きながらつーっと目線を下げる。そこからは怒涛のメッセージ続いていた。『どうした』『大丈夫』『嫌い?』『なんで返事してくれないの』『おーいおーい』『なんで』一つわけのわからない写真を挟んで数分後にまた『ブロック? した?』と続いてく。それから最後に『ごめんね。なにかわからないけど怒らせたならごめん。ブロックされているなら見えないだろうけど謝りたいから謝る』と書かれて止まっていた。

 なんかとんでもないことをしてしまったのかもしれない、という気持ちが今更になって襲ってくる。遅い。

 今になっても嫌悪はない。むしろ会いたいという気持ちが湧くだけ。

 この気持ちはなんなんだろう。わからない。

 さっさっとスマホを操作する。

 困ったときに頼るのはやっぱりGo〇gle先生。私が頼れるのは君しかいないから。

 『友達 ドキドキ 会いたい』と、また小学生みたいな検索をする。

 すると、すぐに結果が出てくる。最初に出てくるのは『同性の友達に会うたびドキドキしてしまいます。会うだけで幸せになれて、これって恋なのでしょうか』という質問掲示板だった。その下には『友達を好きになるっておかしいの?』というページ。スクロールすれば『友達なのに恋してるような気分になります。これっておかしいんですか』という有名カウンセラーさんへの質問だった。

 スクロールして、表示されるものを見れば見るほど私の頬はどんどんと火照り始める。

 心にかかっていた靄はいつの間にか綺麗さっぱり消えてしまう。晴れやかになってずっと逃げ隠れしていた感情が顔を出す。

 「好き……」

 見えた感情。そして私の想い。

 圧倒的な高揚感。それに匹敵するくらいのスッキリさ。

 「私、そっか、そっか、そうなんだ。うへへ……」

 自分でも気持ち悪いと思うような変な笑い。それさえも許容できてしまうほどに今は幸福感に包まれている。

 人に恋をした。

 他人との関わりがなかった私が他人に恋をした。ポジティブで特別な感情を抱いた。

 嬉しい。人を好きになるってこういう気持ちなんだ。

 頭からずっと星崎さんが離れなくて、笑顔をずっと見たくてでもその笑顔は私だけに向けられてて欲しいという独占欲もあって、連絡があればそれだけで飛び跳ねるくらいに嬉しいし、無視されれば死にたくなるくらい悲しくなる。これが恋。

私が無知だっただけであってずっと答えは出ていたんだなぁと。今になって知る。

 『ごめんなさい』

 感情が昂り過ぎて、好き勝手文字を入力したら止まらなくなりそうだったので希薄にも感じられる短い文章だけを入力したのだった。

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