第8話 反転する思い
さてと、私もそろそろ行くか。2人が2年生を誘うなら、1年生の方がやっぱりいいよね。
さっき2人に宣言したことを思い返しながら、私は1年生の教室に向かった。
多分、出るのは女子部門だよね?それだったら、5組から見て回ればいいや。
ここ、アポロン音大付属は一学年定員80人の学校だ。男女比はだいたい同じくらいで、1から4組が男子クラス、5から8組が女子クラスとなっている。
全寮制の学校で、寮はもちろんのこと学校生活でも基本的に男女別行動。寮みたいに建物自体が男子女子で分かれているわけじゃないけど、クラスも違うし、教室がある棟も違う。男子と会うのなんて、図書室、資料室といった共用スペースか、部活や全校集会など。だから、部活に入ってない子なんかは全く男子と関わりがないのだ。
ま、それはいいとして。とりあえず5組を覗いてみた……けど。
誰もいないねぇ。みんなもう部活選んだのかな?早いなー、入ってまだ3日なのに。
そう思いながら6組の教室を覗くと、2人の女子が話しているのが見えた。
1人は肩までの髪をお下げにした、元気そうな女の子。もう1人はボブヘアの大人しそうな女の子だ。
ていうか……ボブの子、どっかで見たことある気がするな……ま、声掛けてみよっと。
「そこのおふたりさん、ちょっといい?」
私が声をかけると、2人はぱっと会話をやめてこっちを見た。そして、暫く2人で顔を見合わせていたが、最終的に、お下げの子が口を開いた。
「はい、どうかしましたか?」
うん、話は聞いて貰えそう……そう思った私は、尋ねてみることにした。
「あのさ、2人は部活、もう決めた?」
私の問いに、首を振る2人。
お、ラッキー。幸先いいね。これなら勧誘しやすい。
そう思い、私は笑顔で言った。
「もしやりたい部とかなかったら、私たちと一緒に、アイドルやらない?」
すると、2人はまた顔を見合わせ、口を開いた。
「私はちょっと……」
「楽しそう!やってみたいです!」
お下げの子、ボブの子がそれぞれ言う。そして、え?と言うようにお互いの顔を見た。
「せっちゃん、アイドルやるの!?」
「桃ちゃんこそ、やらないの!?好きそうなのに!」
なんか思いが食い違ってるっぽい?よくわかんないけど。
せっちゃんと呼ばれたボブの子が言う。
「桃ちゃん、一緒にやってみようよ〜。ね、楽しそうじゃない!」
でも、桃ちゃんと呼ばれたおさげの子は乗り気じゃなさそうに言った。
「んー、私はちょっと……応援とかならするからさ」
しかし、せっちゃんと呼ばれた子は引き下がらない。桃ちゃんという子の腕をつかみ、「とりあえず話だけでも聞いてみよう!今メンバーどれくらいいるかとかさ!」と言っていた。
あ、これ、話すパターンね?
そう気付いた私は話し出した。
「メンバーは今のところ3人だよ。私と、私の同級生の矢島海理、それに姫里月椿さん」
言いながら気付いた。せっちゃんは姫里さんに似ているんだ!もしかして妹とか……?
突然、さっきまで目を輝かせて私の話を聞いていたせっちゃんが俯いた。
あれ、どうしたんだろ。私はせっちゃんの方を向いて、尋ねた。
「ねえ、どうしたの……?」
するとせっちゃんは、暗い目をして言った。
「お姉ちゃんが一緒なら、やらないです」
え……なんで?
「なんで……って、聞いてもいい?」
私の言葉に、せっちゃんはこう答えた。
「お姉ちゃんと一緒に何かやったら……また私、お姉ちゃんの引き立て役になるから。何をやってもお姉ちゃんより下手で、お姉ちゃんと比べて星蘭はって言われて。私には、お姉ちゃんみたいな才能なんてないんです……!アイドル、楽しそうだなって思ったけどお姉ちゃんがいるならやめます」
せっちゃん……せいらちゃんが苦しそうな顔で言ったその言葉は、妙に私の耳にこびりついて離れなかった。
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