第4話 新メンバー!

えーと。これはどういう状況なんでしょう……?


膝の上にはお弁当。そして、目の前には海理ちゃんの頭があります。


端的に言うと、海理ちゃんが私を抱きしめているんですけど。

私、そんなすごいこと言いました?嬉しかったのでしょうか?


そんなことを考えていると、海理ちゃんが言いました。…私を抱きしめたまま。


「ありがとう、月椿。すっごい嬉しい」


普段元気いっぱいでマシンガントークな海理ちゃんが、すごくゆっくり……丁寧に言ってくれました。

本当に、喜んでくれているんだな。

でも、なんだか照れくさくなっちゃって、私は海理ちゃんに声をかけました。


「ふふ、いいんですよ。それより海理ちゃん、お弁当、食べましょ」


するとその言葉で、今がお昼休みだということを思いだしたのか、「やっばい!」と言って自分の隣に置いていたお弁当を手に取り、食べ始めました。


私も残りを食べようかな。残したらもったいないから、食べきらなきゃ。


そう思い、二人で無言でお弁当を食べていると。ふっと影が差し込みました。


あれ?

そう思って、海理ちゃんと二人、顔を上げると……


「よっ」


「友弥!!」


楠木坂さんがいました。なんだか今日はよく会いますね。


「実技テストお疲れ様、海理、姫里さん。どうだった?」


と楠木坂さんが言うと、


「なんとかオッケーだったよ!疲れた!」


と海理ちゃん。なんとまあ、正直なことで……


「私も大丈夫でしたよ。楠木坂さんはどうでした?」


私が答えると、楠木坂さんは笑顔で、


「私も大丈夫だったよ」


と言いました。


なんだか不思議な感じです。海理ちゃんが居なかったらきっと話すことは無かったでしょうけど、今日だけで沢山話している気がします。


これも、海理ちゃんのおかげなのかな。そう思って私が隣を向くと、何やら真剣そうな顔でこちらを見ています。


「ん?海理、どうしたの?」


キョトンとする楠木坂さんに、海理ちゃんは立ち上がって歩み寄ります。


「ねーねー、友弥〜。友弥さ、アイドルに興味無い?」


ニヤニヤした顔で近づいていると思ったら。なるほど、そういうことですか。


まあ、何のことやらわかってない楠木坂さんはキョトンとしたまま。

その様子を見て、海理ちゃんはニヤニヤしたまま言いました。


「あのさ、あたしと月椿で、ハイドラに出ようって話してたんだ。友弥も一緒に出ない?」


てん、てん、てん……


「はぇ?」


楠木坂さんの口から変な声が飛び出しました。


「え、二人でハイドラに出んの?姫里さんと?マジで?」


と楠木坂さん。

……そんなに意外ですか?うん、意外ですね。


「うん、マジで。マジ寄りのマジ」


海理ちゃんが返します。マジ寄りのマジって……


「で、友弥も出ない?絶対楽しいと思うんだけど」


海理ちゃんがさらに言葉を重ねます。

すると、楠木坂さんはうーんと悩み、口を開きました。


「私は別にいいよ。……バンドの方も上手くいってないし……ただ、姫里さんは私がいてもいいの?」


へ?私?何故?

あ、別に仲良くないからということですか…ふーん、別に気にしてませんけど。


「私はいいですよ。メンバーが増えるのは大歓迎ですし」


別にいいですよ、と言わなかったことを褒めて欲しい。

いえ、友達がいないことを気にしている訳じゃないです。断じてないです。


私の言葉に、海理ちゃんは「よっしゃ!」とガッツポーズ。そして、楠木坂さんに右手を差し出して言います。


「よろしくね、友弥。これから三人で頑張ろ!」


楠木坂さんがその手を固く握り返した時。


キーンコーンカーンコーン…


お昼休憩の終わりの鐘が鳴り響きました。


ハッとして隣を見ると、食べかけ(しかも結構残っている)のお弁当を手にし、あっ……という顔をする海理ちゃん。


それがなんだかおかしくて、私と楠木坂さんは笑いが止まりませんでした。

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