第3話 海理の思い
「あー!疲れたー!」
今は昼休み。やっとのことで実技テストを合格したあたしは今、月椿と一緒に、中庭のベンチでお弁当を広げたところだ。
お弁当っていっても、うちの学校は全寮制だから皆同じなんだけどね…
「お疲れ様、海理ちゃん。よく頑張りましたね」
よしよし、というようにあたしの頭を撫でてくる月椿に、
「やっと終わったよぉー!頑張ったよ!褒めて!」
なんて抱きついてみたら、
「よく頑張りましたね、偉いですよ、海理ちゃん」
なんて褒めてくれるもんだから、調子に乗っちゃうよね、全く!
「さ、ご飯を食べましょう。あと、朝の件も詳しく聞かせてくださいな」
そう言ってお弁当の包みを開き、箸を手に取り「いただきます」と手を合わせる月椿。
これは脈アリと考えてもいいのか!?
とりあえずあたしも「いただきます」と手を合わせたあと、お弁当を膝の上に乗せ、話すことにした。
「そう、あのね。あたし、朝も言ったようにハイドラに出たいの。去年の最後らへんに女子部門の優勝者のWorld Flyers!のPVを見てね、やりたいって思ったんだ」
月椿はお弁当を食べながら、静かに頷きながら聞いてくれている。月椿は人の話を最後まで聞いてから自分の意見を言う人だから、とりあえず最後まで話させてもらおう。
「ただ単に憧れたわけじゃない。歌も上手いし、曲の出来もいい。でも何よりすごいなって思ったのは、あの5人は他に見たどのユニットよりも『自分の魅せ方』を知ってるってこと。『魅せる音楽』を演奏しているんだなって思った。それはきっと、人に見てもらうことを前提としたアイドルだからこそできることなんだと思う」
いつの間にか食べる手を止めて聞いてくれる、月椿の真剣な表情を嬉しく思いながら、あたしは続ける。
「音楽ってさ、耳で聞かせるだけじゃダメなんだよね。目で聴き、耳で聴き、心で聴くものなんだよね。だから音だけじゃない、自分と楽器で、演奏で『魅せ』なきゃいけない。あたしは、アイドルを通してそれができる演奏家になりたい。さらに自分の中の音楽を深めるために、人を楽しませて自分も楽しむ、アイドルになりたいって思ったんだ。でも、ハイドラに出るにはあたし一人だけじゃ無理だから、誰か誘おうって思った時に、一番に浮かんだのが月椿だったんだ。ねぇ、月椿。一緒に、ハイドラに出たいの。お願い」
月椿の目を真っ直ぐに見て言う。大切なことは、相手に真剣さを伝えるためにも目を見て言わなきゃ。
あたしの話が一段落ついたことをさとったのだろう、月椿が箸を置いて口を開いた。
「あのね、海理ちゃん。私は海理ちゃんも知っての通り、人前で笑顔で歌ったり踊ったりできるようなタイプじゃないんです。別にスタイルが良い訳でも可愛い訳でもないんです。私は、アイドルなんて向いてない…」
手を組んで下を向きながら話す月椿。いや、可愛いと思うけど。てかめちゃくちゃ可愛いけど。
やっぱり、嫌なのかなぁ。嫌だよね、そもそも目立つことが苦手なタイプなのに。
月椿、嫌ならいいよ…
そう言おうとしたあたしより先に、月椿が「でも!」と言った。
目を伏せながら月椿は言う。
「海理ちゃんが、真剣だったから。その場限りのテンションとか、遊び半分とかなら、私は話を最後まで聞こうとすらしなかったと思います。でも、海理ちゃんは真剣だった。自分なりの音楽を深めるために、誰よりも真剣に考えて言ったんだってわかったから。それにね…やりたいって思った時、一番に私が浮かんだって言って貰えて、すごく嬉しかったんです。だからね、海理ちゃん」
そう言って顔を上げた月椿は、優しい笑顔をしていた。そして、あたしがさっきしたみたいに、あたしの目を見て、口を開いた。
「私も、やります…海理ちゃんと一緒に、ハイドラに出ます!海理ちゃんの為にも、私の為にも!」
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