第2話 未来に向けて

海理ちゃんに手を引っ張られながら走ること数分。私たちは、自分のクラス…3年5組の下駄箱の前にたどり着きました。


「ふう。疲れた〜」


と言いながら下駄箱の前に座り込む海理ちゃんをじっと見つめながら、私は言います。


「あの……海理ちゃん、そろそろ手を離していただけません?」


すると、海理ちゃんは飛び上がり、


「うっわ!ごめん!ずっと引っ張ってた!?マジごめん!手汗やばくなかった?ホントごめん!」


とこちらが引くほど謝りながら手を離しました。


「ところで……今日の実技テストは何の楽器ですの?」


というのも。私たちの学校は、クラスが一緒でも、個人の専攻楽器はバラバラなのです。むしろ、同じクラスに同じ楽器専攻の人が偏らないようにしているらしい…です、噂によると。

私はヴァイオリン専攻だけど、海理ちゃんは様々な楽器を扱う打楽器専攻だから、実技テストとだけ言われても、なんの楽器を演奏するのか分からないということです。


そんなことは置いておいて。海理ちゃんは上履きを出す手を止め、大きな溜息をつきつつ言いました。


「……マリンバだよ。あたし、マリンバ苦手なんだよね。ママの影響で民族系は得意なんだけど、鍵盤はどうしても手が絡まるんだ。それに今回、4本持ちだから余計にムズいの〜!!」


分からない人のために説明しておくと、マリンバとはいわゆる「木琴」のことです。マリンバは楽器自体が大きくて柔らかい音を出す楽器です。ちなみに、楽器のサイズが少し小さめで、硬い音の出る木琴はシロフォンと言います。


そして、海理ちゃんが言う「4本持ち」とは、マリンバやシロフォンなど鍵盤楽器を叩くバチ「マレット」を片手に2本ずつ、計4本持つ演奏方法です。

私はやったことがないけれど、あれ、指つりそうなんですよね……


「ふふ、お互い頑張りましょ。いつも頑張ってる海理ちゃんなら大丈夫ですよ」


私が言うと、海理ちゃんは「つばきー!!マジ女神!!」と言って私を抱きしめました。

それにしても……抱きしめられるのはいいですが、いつまでここで話すのでしょう。靴箱前にずっと座っているのもお行儀が悪いですし、通る人がいたら邪魔になります。

すると、私の視線に気付いたらしく、


「まっ、早く教室行こ!」


海理ちゃんがそう言い、私たちは教室に向かって歩き出しました。


「にしても…誰もいないねぇ。やっぱり朝早いからかな?」


海理ちゃんの言う通り、全然人とすれ違いません。なにせ今は午前6時30分。朝練をするにしたってもう少し遅い時間からするのだから、当たり前と言ったら当たり前ですかね?


「そうですわね…まあ、共用楽器の海理ちゃんにとってはいい気もします」


「そうだね〜、あたしとしては楽かな……あ、友弥!おはよう!」


あ、人影が……短髪に高身長の女子、ということは…私たちと同じ学年(ちなみに違うクラス)の楠木坂友弥さんです。


「お、海理、おはよう。あっ、姫里さんもおはよう」


そう言って楠木坂さんは私にも挨拶してくれました。


「おはようございます、楠木坂さん」


……うーん、友達の友達に挨拶された時ほど困ることは他に無い気がします……


「今日、実技テストだよね。海理も姫里さんも頑張って」


そう言ってニコッと笑う楠木坂さん。なるほど、年下の女子が騒ぐのもわかるかっこよさだ。


「ありがとう〜、友弥も頑張ってね!」


「ありがとうございます、お互いがんばりましょう」


そう言って私たちは別れ、まだ誰もいないであろう教室へ向かいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

HIghschool Dream Live! BRILLANTIST編 薄氷 暁 @usurai_aki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ