第25話

 車に乗り込み、シートベルトを締める。


「ゾンビも人もいなくてよかったよな」


「そうだね」


 美咲は気怠げそうに答えた。昨日とは違い、助手席に美咲が座り、後部座席にはメロが座っている。


「あんまり寝れなかったのか?」


「ううん、大丈夫。早くいこう」


「おう」


 もしかしたら、昨日のことを気にしているのかもしれない。俺とメロの関係のこと、直接、ぶつけるわけにもいかないから我慢しているのだろう。


 バックミラー越しにメロを見る。肩肘をついて外の景色を見ているようだった。


「ガソリンが少なくなってきたから、途中にスタンドがあったら寄ろうと思う」


「わかった」


 気まずい沈黙に耐えかねて、ラジオを付ける。どのチャンネルに回しても、なにも聞こえない。もう放送をしている場所さえも、ゾンビにやられてしまったのかもしれない。


 走らせていると馴染みのあるオレンジ色の看板を認めた。日焼けしていて変色しているけれど、ガソリンスタンドに間違いない。


「まだ残ってるといいんだけど」


 俺は車を停めて、給油口を開き、ガソリンを入れる。まだかなり残っているようだった。大阪でもかなり田舎の方だからこそ、ここまで残っていたのだろう。


「ちょっと周り見てくる」


「ゾンビがいるかもしれないから気を付けてや」


 メロと美咲に任せて、バットを持ち、周囲を歩く。左右は都会では見かけない小さい商店があり、薄汚れた窓から中を覗いても誰もいない。ゾンビがいる気配もなかった。SNSに投稿されていた自衛隊の基地からもそう遠くないため、もしかしたら全員避難を完了しているのかもしれない。


 2人の元に戻ると、すでに給油を終えているみたいだった。


「ごめん、待たせた」


「誰かいた?」


「ゾンビも人間もいなかった。避難してるかもしれない」


「そう。でも、それだけの人数が避難してることを考えたらさ、食料とか寝床とか足りてるのかな?」


「どうなんだろ。こればっかりは行ってみるしかないと思う」


「……そうだよね」


 また古い街並みを抜けながら、南下していく。進めば進むほどに民家は少なくなり、田んぼが増えていく。


「お兄ちゃん、熊のゾンビとかいたらどうする?」


「どうするって?そりゃ逃げるしかないよ。ただの熊でさえ勝てる気しないのに」


「でも、まだ動物のゾンビに出会ってないよね。犬とか猫とかいてもおかしくないのに」


「確かにそうだな」

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