第23話

 メロはバスローブ姿で不安げに立っていた。俺の顔をまじまじと見て、なにかを言おうとしていたが、結局はやめてしまったらしい。部屋に招き入れる。お互いに泣いていたのは口に出さなくても、なんとなく察してしまっていた。


「寝ようとしてたよね?ごめんね」


「いや、別に、まだビールも残ってたし」


「え、こっちの部屋、ビールとかあったん、めっちゃええやん。うちの部屋、冷蔵庫になんもはいってなかったもん」


 冷蔵庫のなかから酎ハイを取り出して、俺の隣に腰掛けた。ふわっとボディーソープと香水の匂いがする。


「じゃあ、乾杯しよっか」


 控えめに乾杯をして、喉を潤す。さっきよりも苦く感じる。


「そういえば、テレビとか映るんだっけ」


「あ、ちょっとまって」


「え、絶対なんかえっちなやつ見てたやろ」


 リモコンを奪い返そうとするよりも、メロが電源ボタンを押す方が早かった。


 画面全体に映る女性の死体と群がるゾンビたち、それが一時停止されたままだった。


「思ってたけど、薫って……頭おかしいよね」


 メロの肩が小刻みに揺れている。


「えっちなのでも見てるかとおもったら、ゾンビなんか見る普通?だって、外でいっぱい会えるじゃん」


 なにがおかしいのか、メロはこちらの顔を見ては、目尻の涙を拭っている。


「なんか、元気出たわ。さっきまでちょっと鬱だったけど、あほらしくなってきた」


 酎ハイを一口飲むと、俺にしなだれかかってきた。バスローブの隙間から胸の谷間が見える。もう少しで先端まで見えるかもしれない。


「ね、そんなにガン見しなくても、脱がしていいんだよ」


「電気は消した方がいい?」


「薫の好きなようにして」


 俺もビールを一口飲んだ。そうして、唇を重ね合わせる。メロの吐息から香る酎ハイの甘い匂いに誘われて。


 今日までの悲劇を、退屈を、寂しさを、打ち消しあうように、お互いを貪りあった。それは解体作業に似ていた。コリをほぐし、弱いところを攻めたて、貫いては、放出する。我を忘れてぶつかりあう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る