第22話

 ベッドに戻り腰掛ける。グレードの高い部屋のため、いろいろと充実しているのかもしれない。さっそく蓋をあけ、ビールと一緒に食した。サクサクした感触は罪の味がする。テレビでは見慣れたゾンビたちがビキニ姿の女性を追いかけている。現実とは違い、このゾンビは走るらしい。しかも、人間よりもかなり早い。


「本当によかった。こんなゾンビがおらんくて。おったら一瞬で終わってまうわ」


 女性は逃げ切れるかと思いきや、逃げた先にはゾンビが待ち構えている。挟み撃ちにされた格好で、ちょうどいいことに左右は高い塀に覆われていて、退路を絶たれていた。


「これ、間違いなく死んだな」


 お約束通り、女性は倒され、群がるゾンビに噛みつかれ食い荒らされる。二の腕や太もも、お腹に胸、ついには顔も噛みつかれ食いちぎられる。いつもなら、こんなシーンなんともないのに、結衣のことがチラついて、慌ててリモコンの電源ボタンを押した。


「見るんじゃなかった」


 思い出さないように、考えないように気をつけていたのに、ふとした拍子に、映像が流れるのはなぜなのか。こんなにも忘れようと努力しているのに、頑張れば頑張るほど残滓のようにこびりついて、離れない。それは嫌な記憶ほどそうだった。幸せな記憶だけ残っていたらいいのに。


 しんと張り詰めた空気が流れる。俺はビールを口に含んで、シャワーを浴びようと服を脱いだ。落としたTシャツを拾い上げ嗅ぐ。汗とともに車の芳香剤の匂いが漂った。うまく分離していて、それぞれがきつい臭いを放っている。身体を洗うついでに一緒に洗ってしまおうと決意した。


 温かいお湯が流れていくとともに、張り詰めていた糸が緩み始める。呼吸が浅くなってくる。吐き気がして、えずいてみるけれど、なんにも出てこない。しゃがみ込む。……寂しい。意図せず、漏れてしまう。思い返せば、あの日から常に美咲と一緒にいて、今日はメロもいた。本当にひとりになったのは、この部屋にきて鍵を掛けた瞬間だった。これまでのことが頭をよぎる。結衣に告白をした日、初めて身体を重ねた夜、メッセージのやり取り、好きって言われて、好きといったこと。もう会えないのに。次から次へと絶え間なくフラッシュバックしていく。


 背中に当たるシャワーの熱を感じながら、俺は動けずにいた。アルコールのせいもあるかもしれない。涙はシャワーと一緒に排水溝へと流れていった。


「まだ起きてる?」


 ベッドでうとうとしていると、控えめなノックとともに、メロの声が聞こえた。


「どうしたの?」


「ひとりでいるとおかしくなりそうだったから……。あと、ついでに、助けてもらった恩返しをしようと思って」



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