第20話
「どの階から見ていく?」
俺は非常階段のドアを慎重に開けながら、二人に問いかけた。
「なんとなくだけど、2階は避けたほうがいいかも」
「うちも3階より上がいい」
ちゃんと管理されていなかったのか、蝶番の部分が錆びついており、甲高い不快な音が鼓膜に響く。やけに硬く重いドアをどうにか押し開き、二人を先に通した。非常階段は螺旋状になっている。足音に注意しながら一段ずつ上がっていく。ゾンビとも人とも出会わず3階に辿り着いた。
ひとつずつ鍵を差し込んでいく。マスターキーだったようで、どの部屋の扉も開くことができた。その中で特に綺麗そうなのを三つ選び、各自着替えや荷物を運び入れていく。別の部屋は血まみれになっていたり、死体がベッドに安置されていたり、ゾンビが飛び出してきたりなど、まともな部屋はほとんどなかった。
「これ、夜ご飯に食べて」
「ありがとう」
メロは車にカセットコンロとガスボンベを積んでいたらしい。水を沸騰させ、スーパーで回収していたカップ麺に注いでいく。ラーメンの匂いが部屋中に広がる。その匂いにつられ、メロのお腹がなった。
「温かいものを食べるの久しぶり」
メロはひとり顔を赤くしながら、お腹をさすっている。この様子では3分も待ち切れないかもしれないな。
「これまで、これまでっていうか、こんな世界になってから、どんなもの食べてきたんだ?」
「コンビニの弁当とか、菓子パンとかかな。住んでたマンションがゾンビまみれになってから、帰れなくなっちゃって、ずっと車で生活してたから電子レンジもなくて……。まぁ、マンションっていっても団地だったから、おじいちゃんとかおばあちゃんが多くて、みんなすぐに噛まれてゾンビになったから感染もはやかったんだけど」
メロは腰掛けていたベッドに転がった。誰も行儀が悪いと咎めたりはしない。3分を待ちながら、美咲も静かにしていた。仲良くなってからというもの、普段はあんなに喋っていたのに。人見知りとは思えないからこそ、不思議だった。
「あぁ、見たいドラマとかいっぱいあったのに、こうなるなら、ちゃっちゃと見とけばよかった。あんな彼氏なんか早く捨てて、もっとイケメンと付き合えばよかった。お母さんどうしてるんだろ。まぁどうでもいいけど、あんなアバズレ……」
取り留めなく、ぽつりぽつりとメロは話し続ける。喋っていないと息ができないみたいに。時折、啜り泣く声も聞こえる。なんとなく気まずくなって、俺は急ぎ麺を啜る。こんな世界でもカップ麺の味は変わらない。当たり前のことだけど、少しホッとしている自分もいた。
「お兄ちゃん」
部屋に戻る途中、美咲に呼び止められる。
「裏切らないでね」
「美咲を裏切ることはないよ。絶対に。もし他の女性とそういう行為をすることがあったとしても感情はなくて、単純に性欲を処理するだけだから。ほら、男性は身体と心を完全に切り分けることができるっていうじゃん」
あまり納得をしていない様子だったが、美咲は自身の部屋に戻っていったようだった。
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